なぜ、日本の原発技術は
周回遅れなのか?
田中 こうした3層の防護にもかかわらず、3層を突破して、燃料が損傷したり、メルトダウンが起きたりしてしまう事故のことを「シビアアクシデント」といいます。
スリーマイルでもチェルノブイリでも炉心が損傷し、メルトダウンや核暴走が起こりました。海外で3層を超えた事故が発生し、日本の大事故対策はこのままでいいのかと問われ続けましたが、結局、日本は無視しました。
広瀬 なぜ、当たり前の対策を無視したのですか?
田中 日本は世界最高の原発技術を持っていると錯覚していたからですよ。天狗になっていた。日本の原発は安全だ、と。昔は米国を師と仰いでいましたが、スリーマイル島原発事故以降原発の新規建設をやめた米国をバカにしはじめた。たとえばこんな話があります。
福島原発事故で「格納容器ベント」という言葉が有名になりましたね。事故が拡大し格納容器の圧力が高くなったため、格納容器が破裂するよりはと、中のガスを環境中にベント(放出)して圧力を下げようとしました。
しかし、じつは、東電・福島原発にはもともと格納容器ベント装置なるものはなかった。米国がシビアアクシデント対策の一つとして考えた装置を2000年ごろまでに仕方なく取り付けたものですが、このベント装置に関して、東電はその昔、「日本の原発では事故発生防止を最優先に安全性が高められており、現実に炉心溶融など起こるとは考えられない。現時点では、そのような事故の影響を緩和する対策を講じる必要はないと考えている」などと、偉そうなことを言っていたんです。
しかし、前に言ったように、米国は1994年に深層防護を5層にする対策を行い、さらに2001年の9.11以降はテロ対策にも力を入れました。テロで全電源を破壊されたときのことを考えたのです。
あとになって日本の原子力安全・保安院の役人が調べにいったら、「資料は何もあげられない」と言われ、手ぶらで帰ってきています。
広瀬 テロ対策は内部秘密なので具体的な資料はくれない。だから日本は放置してきたのですね。そんな無責任なことがありますか。
田中 スリーマイル以降も、米国に学ぶことをやめていなければ、日本でも3層を超えた対策、つまり本格的なシビアアクシデント対策を行っていたでしょうから、福島の事故は起きなかったかもしれない。日本のシビアアクシデント対策は周回遅れになっていたのです。