ニューヨークを中心に展開する「momofuku」というレストラングループがある。ヌードルバーとして人気を博し、オーストラリアやカナダにも進出している人気店だ。韓国系の米国人シェフ、デビッド・チャンは店名の由来をこう語る。
「安藤百福へのオマージュだ」
世界で最も名前が知られている日本人の一人、安藤百福。その人生は波瀾万丈だ。台湾で生まれ、戦前は繊維産業で、戦後は塩の製造で財を成す。しかし、製塩所の若者に渡していた小遣いの源泉徴収を怠ったと脱税容疑で収監。裁判の結果、無罪釈放となったのは2年後のことだった。その後の安藤は請われて信用組合の理事長に就任する。発明のきっかけを得たのはこの頃だ。
昭和20年代の日本は深刻な食料不足に悩まされていた。GHQは当時米国の余剰作物であった小麦を日本に援助し、多くは給食などでパンに加工されていた。自伝によれば「東洋には麺文化がある。麺なら栄養もあるだろう」と厚生省(当時)に提案するが「量産技術がない」と却下されてしまう。
苦闘は続く。10年後、その信用組合が資金繰りに行き詰まり倒産。負債を返すために安藤は無一文になる。残ったのは住んでいた家だけ。そうした状況で取り組んだのがインスタントラーメンの研究だった。