食べることが好きだった杉田玄白は「歯」が悩みだったイラスト/びごーじょうじ

『解体新書』の翻訳、『蘭学事始』の著者として知られる杉田玄白。江戸時代にしては卓越した長寿者だった彼は、古希(70歳)を迎える前年「養生七不可」という健康長寿のためにしてはいけないことを子孫のために書き記している。いわく、

一、昨日の非は恨悔(こんかい)すべからず。
二、明日の是(ぜ)は慮念(りょねん)すべからず。
三、飲と食とは度を過すべからず。
四、正物に非れば苟しくも食すべからず。
五、事なき時は薬を服すべからず。
六、壮実を頼んで、房(ぼう)を過すべからず。
七、動作を勤めて安を好むべからず。

 昨日の失敗は悔やまず、明日のことは過度に心配しないこと。食べ過ぎ、飲み過ぎに注意して、変わった食べ物は食べないこと。何でもないのに薬は飲まず、元気だからと無理をしてはいけない。楽をせずに常に体を動かすこと──現代でも十分に通用する7ヵ条である。

 その食生活は簡素を旨とするものであった。生涯最後の著述となる『耄耋(ぼうてつ)独語』にこう書いている。自分は生来、健康で頑強な体であったわけではなく、養生を心がけたということもない。若いときには酒も少し飲んだが、中年を過ぎてからはあまり飲まなくなった。特別好みの食べ物もなく、ただそのときのおかずが1品か2品あれば満足してきた。近頃の普段の食事はだいたい女子1人前というには少し足りないくらい……。