米国の高級スーパー「トレーダー・ジョーズ」の元社長が、販売期限を過ぎた食品を扱うスーパー「デイリー・テーブル」を企画し、この5月から営業を開始するという。
低所得者層に向けて安価な食品を届けようとの試みで、販売期限切れの商品や見かけが良くないため農家が廃棄せざるを得ない農産物などが店頭に並ぶことになる。企画意図には格差社会における貧困層をターゲットとするだけではなく、まだ食べられる商品が大量に廃棄されてしまう「食品ロス」の解消もある。
貧困層の拡大、増大する食品ロスなど同じ問題を抱える日本ではどうか。たとえ事実上そうであってもわざわざ「低所得者層向け」と謳うビジネスは現時点ではありえない。
消費期限(安全に食べられる期限)さえ超えていなければ、賞味期限(おいしく食べられる期限)や販売期限(商品撤去の期限)を過ぎた商品でも問題ないことは広く知られるようになってきたが、それを販売するケースは多くない。ましてや専門に扱うスーパーの登場など現時点では考えにくい。「もったいない」が国際語となりつつあると言われるが、食品ロスへの対応面では米国に一歩譲っている現状である。
むろん日本も無策というわけではなく、例えば農林水産省や消費者庁が中心となり、食品業界も巻き込んでの「食品ロス削減国民運動(NO-FOOD LOSSプロジェクト)」を進行中で、ロゴマークの公募や各種啓発活動を行っている。
「3分の1ルール」は
厳しすぎるか?
日本の食品業界には「3分の1ルール」と言われる商慣習がある。このルールでは賞味期限までの期間を3分の1ずつに区切り、最初の3分の1の期間内に小売店に納品し、最後の3分の1の期間を過ぎると返品しなければならない。これは世界的に見ても厳しいルールで、当然ながら食品ロスが生じやすい。少しでも新鮮な商品をとのニーズに応えたものだというが、今や消費者サイドも賞味期限や食糧事情に対する認識を改めつつあり、議論となるケースが増えている。
実際、食品ロス削減国民運動の一環として昨年10月に発足した「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」では「3分の1ルール」の見直しや、賞味期限の延長が検討されている。
この動きを受け、日清食品は今年4月以降に製造する即席麺の賞味期限を延長する。おなじみの「カップヌードル」の賞味期限は従来より1ヵ月長い「製造日から6ヵ月」に、「チキンラーメン」は2ヵ月長い「8ヵ月」に、それぞれ延びる。他のメーカーも同様の対応を行う模様である。
このように、商習慣の見直しは賞味期限の延長や、ひいては食品ロスの軽減につながる。だが期限切れの商品の扱いには課題が残っている。
農林水産省は、食品企業の製造工程で発生する規格外品などを引き取り、福祉施設等へ無料で提供する「フードバンク」活動の普及には積極的なようだ。
そのノウハウは、冒頭で紹介した米国のスーパーのような、期限切れや規格外の商品を扱う一般店舗の運営にも応用可能なはず。安全・安価なら他の条件にはこだわらない消費者も多い。「低所得者向け」は「財布と地球に優しい」に変換可能だ。後はその業態に魅力を感じる経営者が登場するのかどうかだろう。
(工藤 渉/5時から作家塾(R))