融資引き上げのピンチを
「デザイン的思考」で乗り越える
開業に向けた資金提供を約束していた銀行が、突如融資を引き上げると言ってきたら…。事業を手がけたことがある者ならば、それがどれほど恐ろしいことかが分かるだろう。
新潟県大沢山温泉で開業準備を進めていた宿泊施設「里山十帖」は、古い温泉旅館からのリノベーション工事もほぼ完成し、あとは業者への決済を残すのみという状況だった。しかし、工事が進むにつれ大幅にふくらんだ予算を再評価すべく、銀行が新潟県の旅館稼働率や客単価等の実績データにもとづくシミュレーションで得た予測は開業後3ヵ月での資金ショート。不渡りを出すことが分かっている事業に追加融資はない。常識的判断だ。
そう言われたならば、設計を根本から見直すのが普通だ。事業規模をできる限り縮小して、コストをギリギリまで削り、採算が見込めるよう必死に事業計画を練り直す。しかし、里山十帖のクリエイティブディレクターである本書の著者、岩佐十良氏は、絶体絶命の状況下、すべての個人資産を売り払い、親戚からも借金をして、自らの想いを実現するための資金を必死でかき集めた。そうして、銀行の融資凍結判断から半年後の2014年5月、「里山十帖」は無事にグランドオープンを迎えることができた。
それから3ヵ月たった時点で、里山十帖は90%という驚異的な客室稼働率を叩き出した。銀行が既存のデータからは実現不可能と判断した「客室稼働率60%」という採算ラインをはるかに超える数字だった。不可能を可能に変えた秘訣は何か。それは本書で紹介されている「デザイン的思考」にある。