ビジネスリーダーにとってリベラルアーツがいかに重要であるかを熟知する新浪剛史・サントリーホールディングス社長は、野中郁次郎・一橋大学名誉教授による最新刊『史上最大の決断』からも「賢慮のリーダーシップ」を学んだという。キャリアにおいて「最大の決断」から1年、異なる文化、価値観の融合というグローバルマネジメントに挑戦する新浪氏の姿は、「史上最大の作戦」を成功に導いたアイクのそれと重なる。
課せられたミッションは
サントリーのグローバル化
野中 この本はノルマンディー上陸作戦を描いた映画の邦題「史上最大の作戦」をもじって、「史上最大の決断」というタイトルにしたのですが、新浪さんのこれまでのキャリアで最大の決断とは何だったでしょうか。
サントリーホールディングス社長
新浪 ローソンを辞めて、このサントリーに来たことです。この本を読んでいて思ったんですが、僕はローソンでマッカーサーになってしまっていたと。それはそれでかっこいいかもしれないけれど、人生まだ長いですから、そこに安住せず、新たな挑戦をしようと決めたんです。
野中 いわばサントリーのアイクになったわけですね。それはどんな挑戦でしょうか。
新浪 サントリーに移るにあたって、会長の佐治信忠から与えられたミッションが経営のグローバル化でした。今後のサントリーはそこに多大な経営資源を割くと決めたんです。グローバル化とは文化の壁を乗り越えることにほかなりません。それは面白いし、やりがいがあると。
実は文化の壁を乗り越える経験を一度やったことがあります。三菱商事にいた時、フランス企業との合弁で、給食会社をつくって経営していたことがあるんです。
野中 そうですか。
一橋大学名誉教授
新浪 とても大変でしたが、すごく面白かった。フランス人は10個に9個はとんでもないことを言うんですが、残る1つが抜群に面白いんです。
今度、ビーム社を買収してわかったんですが、フランス人に比べたらアメリカ人は理解しやすい。一方で、短期志向で利益を求めがちな気がします。さらに、そのトップのイギリス人のことは理解しにくいけれど、人間としての重みがある。つまり、今まで経験したことがない状況ばかりなんです。そういう中で、自分がリーダーとしてやっていけるか、進化できるか。大いに楽しみです。
野中 今までの知識や経験をアンラーニングできるよい機会かもしれません。
新浪 その通りです。サントリーに移るという決断の裏には、キャリアの集大成をしたいという気持ちがありました。