もともと温泉旅館のお湯を焚き増しするための発電に使われており、老朽化して運転を休止していたが、地域のシンボル的な存在だった発電所の復活を望む地元の声は多かった。そのことを懇意にしていた廃棄物処理業者から大西氏が偶然聞きつけて買い取り、水路設備の改修、発電機の入れ替えなどのリニューアル工事を行って、蘇らせたのだ。

 2014年1月には、茅野市滝之湯堰の農業用水と、蓼科発電所で使用した水を、下流にて再度発電用水として使用する「蓼科第二発電所」(出力141kW)も稼働。こちらは、周辺の一般家庭約250世帯分の年間電力消費量を賄えると見込まれている。

小水力の可能性を切り拓いた
山梨県の官民一体プロジェクト

 2012年2月に開始された「北杜市小水力発電事業」は、本格的な官民一体プロジェクトだ。山梨県北杜市と三峰川電力が官民パートナーシップを結び、丸紅が小水力発電所の開発・運営を手がけている。これは、地元で1000年の歴史を持つ土地改良区の用水路を利用して発電するプロジェクトで、北杜市六ヶ村堰用水路の約16kmの間に北杜西沢発電所(出力220kW)、北杜川子石発電所(同230kW)、北杜蔵原発電所(同200kW)の3ヵ所(総出力650kW)の発電所が建設された。使った水は再び用水路に流れるため、川の形態を壊すことなく自然に優しい発電事業となっている。

 このプロジェクトは、官民双方にとってメリットがあるという点で話題を呼んだ。北杜市は丸紅に開発の許可を与えるだけで、税金は一切使わず、「北杜市ウォーターファーム」として地域起こしのPRもできる。片や丸紅側は、市のお墨付きをもらうことで、土地や水路の使用に関する住民の合意をスムーズに取り付け、発電事業を行うことができる。このプロジェクトを通じて丸紅の発電事業のノウハウは本格的に高まり、RPS法に代わって同年施行されたFIT(固定価格買い取り制度)の追い風もあって、加速度的に発電所の建設を進められるようになったという。

 北杜市などの成功事例が知れ渡るようになったことにより、地元に小水力発電所を誘致しようとする地方自治体からの問い合わせも増えた。福島の「花の郷発電所」も、自治体の首長の働きかけによって誘致が実現したパターンだった。足もとでは前述した福島の2ヵ所に加え、広島でも古い発電所のリユースによるプロジェクトが3ヵ所計画されている。

 こうした各地の発電所は、長野県伊那市の三峰川発電所の本社から常に監視されている。福島などプロジェクトの範囲が広がるにつれ、緊急事態に本社から関係者がすぐに駆けつけられない遠隔地の発電所も増え始めたが、現地に関係者が交代で滞在し、保守・点検や本部との連携を図っている。

 丸紅のような商社が、比較的短期間で小水力発電の事業化にメドをつけることができたのは何故か。水力発電所の建設にはクリアしなければならない権利のハードルが多いため、「何より地域との信頼関係が大事」と大西氏は語る。同社の前進は、その信頼関係をうまく築けたことによるものだ。