トイレやキッチンなどを扱う住宅設備業界の枠に止まらず、広く建築業界全体に対して、IT(情報・通信技術)のノウハウを活用した変革を起こすことを目指しているK-engine。5年前、畑違いの通信業界から転じた喜久川政樹社長に、新しいプラットフォーム構築の裏側にある危機意識などをじっくり聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

──2014年9月に総合住宅設備機器メーカーのLIXILから分離・独立する格好で、新会社が発足して1年が経ちました。その間、政府系投資ファンドである産業革新機構や、リクルート・ホールディングスの出資を受けて、親会社の出資比率は49.5%に下がり、連結対象の子会社から外れました。最近では、独自の路線として、山形銀行とリフォームに特化したローンの提携をスタートさせています。第一号案件は、なぜメガ・バンクではなかったのですか。

きくがわ・まさき/1963年、広島県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、第二電電(現KDDI)に入社。DDI東京ポケット電話(後のウィルコム。現ワイモバイル)に出向し、PHS事業の開発に取り組む。総合戦略部長、取締役経営企画本部長などを経て、2006年に社長に就任する。ウィルコムの経営再建に東奔西走するも、09年に離脱。しばらく失意の日々を送るが、住生活グループ(現LIXILグループ)の潮田洋一郎社長(当時。現オーナー)にスカウトされる。10年に畑違いの住宅設備業界に転じてからは、IT関連の新ビジネス・新サービスの開発に乗り出す。LIXIL執行役員兼市場創発推進室長などを経て、13年1月のK-engine発足と同時に社長となる。気分転換は、上級者の腕前と言われるスキー、和洋中を問わない創作料理、地域猫と遊ぶことなど。
Photo by Shinichi Yokoyama

 すでに日本では、「人口の減少が始まった」と言われています。

 これは、国勢調査や国立社会保障・人口問題研究所などの推計によっても裏付けられていますが、国全体の人口が減少していくと、結果として雇用が維持できなくなるなど、社会的にさまざまなマイナスの影響が出てきます。

 とりわけ地方銀行は、大都市が中心のメガ・バンクと異なり、地域のB2B(企業間取引)における“資金の貸し手”としての存在意義が希薄化することや、新築の住宅ローンにおける出番が減るという事態に対する危機意識が高く、「何とかしなければならない」という思いが非常に強いのです。

 東京では、2020年のオリンピック・パラリンピック大会に向けて建築関連のビジネスが動いていますが、地方はまったく逆です。むしろ、全体的に目減りしていると言う方が正確です。そんな中で、山形銀行は、既存の新築住宅向けのローンに加えて、地域を支える重要な産業の1つである地場の工務店など小さな建築会社の活性化につながる新規事業としてリフォーム需要の獲得をサポートする取り組みを、最も早く始めたということになります。

 提携話がトントン拍子に進んだのは、問題意識を共有する大学時代の親友が山形銀行にいたということが大きいのですが、すでに同じような悩みを抱えている他の地銀からも「一緒に組めないか」という話があります。まだオープンにはできませんが、金融機関以外とも具体的な話が進んでいます。

──しかしながら、過去20年間、住宅設備業界では「新築住宅着工件数が減少傾向にある中では、リフォーム市場を伸ばすしかない」と言われてきました。長らく、業界にはそのような共通認識がありましたが、13年度の消費増税前の駆け込み需要が一段落した後は、14年度も15年度も伸び悩んでいます。