>>(上)より続く

 それから2ヵ月。哲人さんも手をこまねいていたわけではなく、何とか妻子を連れ戻そうと足しげく実家通いを続けたのですが、結果は門前払いばかりで功を奏さず、時間ばかりが過ぎていったのです。そして自宅に1人取り残された哲人さんのもとに2通の手紙が届きました。宛名はどちらも「家庭裁判所」。2通に共通するのは、それが「調停」だということ。調停とは裁判所内で調停委員や裁判官を交えて話し合う制度です。

 1通は離婚調停への呼び出しでした。妻はこれ以上、哲人さんと話し合っても埒が明かないと思ったのか舞台を裁判所へ移してきたのですが、もう1通は何だったのでしょうか?そこに書かれていたのは「親子関係不存在確認」の調停。一見、聞き慣れない漢字9文字ですが、これは一体、何なのでしょうか?

 まず今現在、戸籍上の親子になっている父と子がいるとします。そこで利害関係者が「父と子が本当に親子なのか」と疑問を抱いたとき、親子関係の有無について結論を出すという制度です。具体的には父と子がDNA鑑定を行い、科学的な視点で本当に親子かどうかを確認します。

 つまり、DNA鑑定の結果、哲人さんと息子さんが「親子ではない」と認定されれば、今まで親子だった2人は明日から赤の他人に成り下がってしまうのです。過去6年間、哲人さんはその子のことを「実の息子」だと思い、息子さんも哲人さんのことを何の疑いもなく「お父さん」だと思い、一緒に喜怒哀楽を分かち合ってきたのに、です。

 哲人さんは裁判所からの手紙を見るや否や、わなわなと手が震え、一気に体中が熱くなり、頭に血が上ってしまったそうですが無理もありません。哲人さんは6年もの間、ずっと「本当に自分の子なのか」と疑いながら過ごしてきました。百歩譲って哲人さんの側から「親子関係不存在確認」の調停を申し立てるのなら、まだ話は分かるでしょう。しかし、実際には妻の方から先んじて申し立ててきたのです。

 哲人さんが「言おう言おう」と思っていたことを妻に先に言われてしまったわけですが、それだけではありません。別のオトコと肉体関係を結んでおきながら、他人の子を育てさせておきながら、そして勝手に出て行っておきながら、「アンタはもうお役御免だわ」と言わんばかりに逆上してきたのですから、哲人さんの怒りは想像を絶するでしょう。

妻との離婚に抵抗はないが
息子とは別れたくないのが正直なところ

 哲人さんは6年間、モヤモヤした苦悩を抱え込んでおり、ようやく今回、白黒をつけることができるのは確かですが、そうそう簡単な話ではありません。哲人さんが息子さんのことを我が子のように可愛がってきたので、そこで生まれた愛着はそう簡単に捨て切ることはできず、息子さんへの愛情が後ろ髪を引き、「調停に出席するべきかどうか」をなかなか決断できずにいたのです。