JR東京駅の八重洲南口から歩いて5分のオフィス街に、13階建てのビルが完成した。場所柄もあって、さまざまな企業が入居するなんの変哲もないオフィスビルだ。
ところがエレベーターで12~13階に上がると、そこには異空間が広がっている。12階は白とクリスタルを基調とし、まるでニューヨークのセントラルパーク近くにある高級マンションを思わせるフロア、13階は打って変わって木目調で、アジアの高級リゾートホテルのような雰囲気に包まれている。
じつは、両フロア共にバージンロードを備えたチャペル、そして100人以上を収容できるパーティ会場を完備した「ラグナヴェールTOKYO」という名の結婚式場なのだ。運営しているのは、今年3月、東証マザーズに上場したブライダル事業を手がけるエスクリだ。
同社はホテル内の式場のほか、邸宅風結婚式場、いわゆるゲストハウスタイプなどを展開してきた。しかし、結婚式で重要視する項目をアンケートで聞いたところ、出席者へのもてなし、なかでも遠方の親戚や友人を招待する際の「利便性」を挙げる人が最も多かった。
そこで、エスクリを立ち上げた岩本博は、駅近の「ビルインタイプ」という、業界の常識を打ち破る新しい式場展開へと舵を切ったのだ。八重洲に続いて、来年にはJR大阪駅ビルにも式場を開設する計画だ。
雑誌創刊でノウハウ吸収
創業資金賄えず二足のわらじで踏ん張る
幼少の頃から、「いつかは社長になりたい」と思い続けてきた岩本。大学を卒業後、まず営業を覚えようと飲料メーカーに入社。続いて提案型の営業を学ぼうとリクルートに転じる。
そこで巡り合ったのがブライダル事業だった。社内でブライダル雑誌「ゼクシィ」の立ち上げが検討された際、「将来、事業を立ち上げるためには願ってもないチャンス」と、岩本はすぐさま手を挙げたのだ。
だが、当時、ブライダル業界に関する雑誌など存在せずすべては手探り状態。雑誌の編集から営業、販売に至るまで、すべてをこなさなければならなかったばかりか、商売のタネである広告も集まらず苦難の日々が続いた。
事業が軌道に乗ったのは、スタートから2年がたとうとしていた頃。レストランウエディングブームの到来がきっかけだった。続いてゲストハウスウエディングもブームとなり、雑誌はあっという間に全国14エリアで発行するまでに成長した。
「雑誌の成功で完全燃焼したこともあり、長年の夢を果たすのは今しかないと思った」
雑誌の事業化を通じて、ビジネスのノウハウはもちろん、人的なネットワークも構築できたと自信を深めていた岩本は、満を持してエスクリを立ち上げる。