近年、経済開放政策への期待から日系企業のミャンマー進出が増えており、前回総選挙の行われた2010年に51社だった現地の日本人商工会議所の会員企業数は、2015年7月に250社に達していた。

 NLDに対しては、不足しているインフラの整備や、不透明な法制度の改革により、外国からの投資を誘致することが期待される。また、チャットの対ドル相場は、輸入急増に伴う経常赤字の拡大で、昨秋から足元までに3割近くも下落している。投資環境の改善やインフレの抑制には為替相場の安定が重要であり、そのためには過剰な輸入を抑制するなど、マクロ経済の安定化策が求められる。

新政権が経済開放政策を
後退させるリスクには要注意

 しかし、経済課題に対するNLDの政策は現状で不透明である。選挙前に公表されたマニフェストを見ると、インフラ整備、制度透明化、外資誘致に加え、マクロ経済の安定化に関する記述があり(図表2参照)、経済発展に取り組む政策方針は示されている。ただし、その具体策が何も示されていない。

 むしろ、土地収用に関する農民の権利保護や、投資の自然環境に及ぼす影響の評価など、NLDがリベラルな公約をマニフェストに盛り込んだことが気がかりだ。農地と環境の保護は重要なテーマだが、過剰な規制で投資を低迷させたインドの前政権の事例もある。NLDが経済政策を具体化する過程で開放路線を後退させないか、注視する必要がある。

 特に日本にとっては、タイと共同でミャンマー南部のダウェーに東南アジア最大級の経済特区を開発するプロジェクトをUSDP政権と合意していたことから、NLD政権が経済開放政策を後退させると、ダウェー・プロジェクトは停滞するリスクが懸念される。

 経済以外にも、NLDは国内融和に関して大きな課題を抱える。選挙後も一定の政治的影響力を保持する軍部との関係や、選挙直後に激化した一部の少数民族との武力衝突、イスラム系ロヒンギャ族の難民化をもたらした宗教対立などである。いずれも対応を誤ると、国情の不安定化につながる恐れがある。

 これらの課題と対峙するNLDの政治家は、スー・チー党首をはじめ政策運営の経験を欠いている。政権移譲直後は、政策が迷走する局面があるかもしれない。新政権の舵取りに対しては、過度に楽観することなく、慎重に見ておくべきだろう。

【著者略歴】小林公司(こばやし・こうじ)
みずほ総合研究所 アジア調査部 上席主任研究員。1994年みずほ総合研究所入社。日本経済、米国経済、欧州経済の担当を経て、2008年よりアジア調査部。2015年より現職。