>>(上)より続く
「お金を取り戻したい。妻を守りたい。そして僕が『夫』なんだと分からせたかったんです」
広樹さんは怒りの感情をこのように表現してくれましたが、年末年始の休みを返上し、「妻の結婚詐欺被害」を解決すべく奔走せざるを得ませんでした。今回の場合、不幸中の幸いだったのは、男が妻を自分の部屋に招き入れていたこと。妻の記憶を辿ることで男の現住所を特定することができたので、電話やメール、LINEが音信不通でも、男のアパート前に張り込んで、待ち伏せし、出入りの現場を押さえて男を捕まえることができました。
もし男が本物の詐欺師だとしたら、足がつかないよう念には念を入れるでしょうから、こんな初歩的なヘマを犯さないはずです。最初から金目的で近寄ってくる本職の「結婚詐欺師」ではなく、あまりにも早く口説くことができ、あっという間に肉体関係を結ぶことができ、そして至って簡単に100万円を手に入れることができ……ここまで上手くいきすぎると、むしろ美人局の心配をした方が良いくらいなので、私の推測では男は勝手に怖気づき、1人で絶望し、逃げ出そうとしたのでしょう。
ようやく見つけた男は「もらってない」
「結婚するんだから返さなくていい」と言い張り
結果的にお金を騙し取るような形になってしまった「なんちゃって結婚詐欺師」なのかもしれません。とはいえ誰しも一度、握ったお金をそう簡単に手放したくはないでしょう。それは男も例外ではなく、労せず手に入れたあぶく銭ですから、何とか握り締めたまま、事なきを得たいというのが当時の心情だったのでしょう。
ともかく広樹さんは特に朝の出勤、夜の帰宅に狙いを定め「夜討ち朝駆け」を仕掛けたのですが、ようやく翌年の1月4日、男が帰省先から戻ってくるところ、首根っこを捕まえたようです。
「彼女(妻のこと)はあなた(男)のことを信用してくれたからこそ100万円という大金を貸してくれたのではないか。それなのにお金を1円も返そうとしないのだから、完全に人の気持ちを踏みにじっており、まるで自分さえ良ければ、ひとは傷つけても構わないと言わんばかりではないか。このような恩を仇で返すような行為は断じて許されない!」