月末の忙しいなか、その会には、部門のメンバー全員が集まりました。

 そこでは、部下からAさんへのはなむけの言葉やこれまでの思い出話などが語られ、美味しいお酒の余韻に浸りながら、心あたたまる楽しい時間を過ごしていました。

 そして、いよいよ最後という時間になった頃、Aさんから部下のみんなへのメッセージが届けられ、メッセージの最後は次のように締めくくられました。

「3年間、本当にありがとう。皆さんのおかげで、業績は大幅にアップし、仕事でもプライベートでも、素晴らしい時間を過ごすことができました。本当にありがとう」

 さらに、このように続けました。

「そして、なかでもひとりの女性にお礼を言いたいと思います」

 Aさんは外国国籍をもつ方でしたので、周囲には「きっと、奥さんの話をするんだろうな」という空気があったのですが、「その女性は、能町さんです」と告げられました。

 Aさんはその当時の私の上司であり、その瞬間、私だけでなく、多くの人の涙を誘いました。

 そして、Aさんは、「本当にありがとう」と赤いマフラーを私の首もとにまいてくれました。私は感激のあまり思わずワーッと涙があふれてきましたが、私だけではなく多くの人たちが涙を流していました。

 すすり泣きがあちこちから聞こえてきたのです。

 普段は「鉄の女」として知られている先輩の女性も目頭を熱くし、いつもは怒ってばかりいる気丈な先輩の男性も、また、どんな時も無表情で飄々としている後輩の男性も、涙を見られないように必死にこらえていました。

 多くの人たちの心の琴線に触れたのです。その場にいた人たち全員にとって、忘れられない一夜になったことでしょう。

 大きな感動に包まれたお別れ会の翌日。

 その朝、同僚が次から次へと私の席にやって来ました。