沖縄県・普天間基地の移設議論が迷走を続けたことにより、鳩山政権は倒れた。結局、移設先は名護市辺野古の「現行案」に落ち着いたものの、後を引き継いだ菅政権も、難しい舵取りを迫られている。普天間問題は、日米同盟のあり方を、国民に深く考えさせる機会にもなった。今後民主党は、どのような安全保障体制を目指すべきか? 安全保障問題に詳しい田中明彦・東京大学教授は、「新しい中世」を迎える日本が、旧態依然の近代国家が並存する東アジアで果たすべき役割を説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

たなか・あきひこ/1954年生まれ。埼玉県出身。東京大学副学長、大学院情報学環・東洋文化研究所教授。専門は国際政治学。東京大学卒業後、マサチューセッツ工科大学より政治学の博士号を取得。平和・安全保障研究所研究員、東京大学教養学部助教授などを経て、現職。政府の各種審議会でも活躍。『世界システム』(東京大学出版会刊)、『新しい「中世」-21世紀の世界システム』(日本経済新聞社刊)、『安全保障-戦後50年の模索』(読売新聞社刊)、『ポスト・クライシスの世界-新多極時代を動かすパワー原理』(日本経済新聞出版社刊) など、著書多数。

――鳩山政権退陣の引き鉄を引いた普天間基地の移設問題は、日本の安全保障体制にも少なからず火種を残した。今後、菅新政権はこの問題にどう対処すればよいのか?

 本来、米軍の沖縄駐留は、日米同盟によって安全保障を実現しようとする日本のニーズに基づいて行なわれている。だが、国にとって必要な施設が、住民にも歓迎されるとは、必ずしも限らない。

 一概に比較できないものの、住民が排水処理場、生産工場、原子力施設などの必要性をわかっていても、「自分の家の近くにはあって欲しくない」と感じるのと、同じことだ。

 「米軍基地が日本のために必要だ」ということは、沖縄住民も理解しているだろう。しかし、「何も、日本にある米軍基地の7割が沖縄になくてもよいのではないか」という批判が出るのは、むしろ当然かもしれない。

 しかし地政学的に考えれば、沖縄にあったほうが安全保障上の意味がある基地も、たくさんある。結果的には、鳩山前首相が妥協した「現行案」が、最も現実的だと言わざるを得ない。