「かばん持ち」をした社長の中には、私のお歳暮(お中元)訪問に同行した社長もいます。

 トリックスターズ・アレア有限会社(アミューズメント/東京都)の日野元太専務執行役員も、そのひとりです。

「お歳暮訪問の最中に、小山さんが、同行しているダスキン事業部の店長を怒鳴ったことがありました。それも、お客様の前でです。最初の訪問先で、小山さんは店長に『花を机の上に置いたまま、どうぞ、と言ってはいけない。手渡しをしなさい』と指導していました。それなのに、2件目でも同じことをした。『言われたことを愚直に守らなかった』ことに小山さんは怒った様子でした」(日野専務執行役員)

 お客様の前で叱るのも、社長のやさしさです。
「ほめるときは大勢の前で。叱るときは1対1でこっそりと」と言う人もいますが、私はそうは思いません。

「叱るのもほめるのも、人前でないと成長しない」と考えています。

恥をかくことは最上の学習機会です。

 もうひとり、トーセキの柳社長も、「かばん持ち」の最中に「小山昇が社員を怒鳴りつけている場面」に出くわしています。

「お歳暮訪問の現場では、武蔵野の社員に対して、とても細かい指導をしていました。『挨拶をするときは、社長の小山ときた、と言え』とか『もう一歩、部屋の奥に入って挨拶をしろ』とか。一度、移動中の車内で、社員の坂本恭隆(やすたか)課長に怒鳴っているところを見たんです。

 理由は、切り花を持って行ったから。『切り花は縁を切るから、ダメ。お客様には、ずっと根づくという意味を込めて、鉢植えにしないとダメ』と言って。でも、愛のある叱り方だったと思います。翌日の早朝勉強会では『坂本はこんなことをやった』と笑いに変えていましたから、坂本さんは2度と間違えないでしょうね」(柳社長)

<著者プロフィール>
小山 昇
(Noboru Koyama)
株式会社武蔵野代表取締役社長。1948年山梨県生まれ。東京経済大学を卒業し、日本サービスマーチャンダイザー株式会社(現在の株式会社武蔵野)に入社。一時期、独立して株式会社ベリーを経営していたが、1987年に株式会社武蔵野に復帰。1989年より社長に就任して現在に至る。「大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団」を毎年増収増益の優良企業に育てる。2001年から同社の経営のしくみを紹介する「経営サポート事業」を展開。現在、600社以上の会員企業を指導しているほか、「実践経営塾」「実践幹部塾」「経営計画書セミナー」など、全国各地で年間240回以上の講演・セミナーを開催。1999年「電子メッセージング協議会会長賞」、2001年度「経済産業大臣賞」、2004年度、経済産業省が推進する「IT経営百選最優秀賞」をそれぞれ受賞。日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞(2000年度、2010年度)。
2004年からスタートした、3日で108万円の現場研修(=1日36万円の「かばん持ち」)が年々話題となり、現在、70人・1年待ちの人気プログラムとなっている。
『【決定版】朝一番の掃除で、あなたの会社が儲かる!』『朝30分の掃除から儲かる会社に変わる』『強い会社の教科書』(以上、ダイヤモンド社)、『99%の社長が知らない銀行とお金の話』『無担保で16億円借りる小山昇の“実践”銀行交渉術』(以上、あさ出版)、『【増補改訂版】仕事ができる人の心得』(CCCメディアハウス)などベスト&ロングセラー多数。
【ホームページ】
http://www.m-keiei.jp/