東京や大阪などで、今や日常風景となった中国人観光客の爆買い。しかし中国本土では、格安ツアーで無理矢理に近いかたちで買い物をさせられている実態が、たびたび問題になっている。

銀座に5時間も放り出され
途方に暮れる中国人たち

免税店とツアー会社が手を結び、中国人観光客たちを巧みに「爆買い」に導く。 香港ツアーではガイドになじられたおじいさんが心臓発作で亡くなる事件も起きて社会問題となった(写真は本文と関係ありません)

 昨年から盛り上がった爆買いは、もはや一過性のブームではなく、すっかり定着した現象と言っていい。中国人たちは日本製品の良さを知っており、「日本人が使っているものを買いたい」と熱烈に思っている。しかし、彼らの動向を詳しく調べていると、自由度を極端に縛られ、ひたすら買い物をさせられる、という格安ツアーに疲弊している現状が見えてくる。

 毎日昼下がりになると、銀座には大型バスが何台も乗り付け、中国人観光客を大勢降ろす。大量の荷物を抱えて地べたに座り込む人もおり、「中国人は行儀が悪い」と思っている日本人も少なくないだろう。ある日、私がそうした中国人に声をかけてみたところ、「12時から、かれこれ5時間も銀座にいる」と疲弊した顔で打ち明けてくれた。

 日本語ができないから、カフェで休憩することもままならないし、「ツアーバスから離れすぎて、乗り遅れたら大変だから、あまり遠くには行けない」と言う。

 彼らが利用しているツアーは、いわゆる格安だ。6日間の滞在で約7万円といった具合で、旅行代理店が普通に商売をすれば間違いなく赤字。そこで、免税店やドラッグストアなどと交渉し、客を送り込む代わりにキックバックを払ってもらう、というビジネスモデルが横行しているのだ。

 こうしたツアーに参加した人からは、見たこともないような、怪しげなパッケージのサプリメントや、明らかにバッタものの金ネックレスを数万円で買ったと見せられる。

 日本向けの旅行だけではない。中国では、こうしたビジネスモデルは当たり前だ。数年前には、香港ツアーで店舗に連れて行かれ、買い物をしなかったおじいさんが、バスガイドから「ケチ」だとか、「カネがないなら旅行などするな」などと罵倒され、心臓発作を起こしてその場で亡くなったという事件が起きた。さすがに酷いと、中国全土で大々的に報道されたケースだ。

 ほかにも「私はこんなに苦労して皆さんをご案内しているのに…。私の生活は皆さんにかかっている」などと意味不明な説得をして、半ば強引に買い物をさせる手口は日常茶飯事だ。

 2014年度のデータで見ると、中国本土からの観光客のうち、ツアーは6割、個人旅行は4割だ。たとえば韓国からの訪日観光客は個人旅行が8割、台湾でも6割だから、中国人はまだまだツアー客が多いことが分かる。