由緒ある名店に細やかな接客、銀座をして別格だといわしめる理由はここにある。その銀座での買い物は日本人にとってのプライドでもある。だが最近、こんな失望の声を聞いた。

「あの店にはもう二度と行きません」――

高級店が立ち並ぶ銀座は、いまや爆買いの聖地

 こう語るのは、武蔵野市在住の主婦・佐藤智美さん(仮名)だ。銀座の百貨店の地下で高級食材を購入しようとしたとき、こんなことがあった。

「販売員に商品の詳細をたずねようとしたら、中国人観光客が入ってきました。販売員は“爆買い客”だと見込んだのでしょう、商品説明も途中なのに気もそぞろ、さっさと私の買い物を終わらせてしまいました。いまどき、爆買いでもしないと十分なサービスを受けることができないんですね」

 中央区に住む会社社長の光村真美さん(仮名)も買い物には銀座の店舗を愛用、店員と会話を交わしながら品定めするのがこれまでの楽しみだった。ところが今年は違う。訪れた靴売り場では「ごゆっくりお選びください」と一言あるだけ。光村さんも「私は爆買い客じゃありませんから。靴一足じゃ、相手にしてもらえなくなりました」と苦笑する。

爆買い客急増による
日本人客の客離れが怖い

 こうした日本人客の不満の声は、銀座の店舗経営陣の耳にもすでに届いている。銀座の店舗が加盟する連絡会、その懇親会に集まった経営者たちはこんなことをささやいていた。

「うちも日本人のお客様からのクレームに頭を痛めているんです」――

 大切にすべきは「長年のお得意様である日本人客」なのか、それとも「購買単価の高い中国人客」なのか。銀座に立地する店舗が抱えているのはそんなジレンマだ。

 インバウンド・ツーリズムが緒に就いたばかりの頃、銀座では中国人客向けサービスの充実に積極的に対応しようという動きが見られた。しかし、おびただしい数の中国人客が訪れるようになった今、店舗側がむしろ気に掛けるのは日本人客の動向である。