同社の慎重な業績見通しに関して、最も重要な要因は為替レートの変化だ。それが豊田社長の言う“潮目の変化”なのである。トヨタの決算資料によると、ドル・円レートの水準が前期の120円から105円に切り下げられ、ユーロ・円レートも133円から120円に修正された。

 同社の見立ての円高がどれほど業績を圧迫するかを見ると、2016年3月期実績と2017年3月期予想の営業利益との差額(▲1兆1539億円)のうち、9350億円が為替レートの変動である。

 その差額の大半を米ドルの下落(ドル安円高)が占めている。この額は原価改善の努力(+3400億円)の2.75倍程度に相当する。為替レートの変動は、企業の自助努力を打ち消して余りあるマグニチュードを持っている。こうしてみると、為替変動が企業経営にとって重大な影響を与えるかがよく分る。

 豊田社長は本年の春闘の際にも、「経営の潮目が変わった」と慎重姿勢を示した。わが国の稼ぎ頭の企業トップが“潮目の変化”を感じていることは、内外の経済環境が転換期を迎えていることと考えるべきだろう。

過去の教訓から学ぶ
円高の脅威

 トヨタの業績予想を見ても、為替レートの変動は企業経営にとって計り知れないほどの影響がある。自動車や家電などわが国の主力企業は、1970年代初頭から筆舌に尽くしがたいほど円高に苦しめられてきた。

 1971年夏、米国の当時のニクソン大統領が突然、ドルと金の交換停止を宣言し、主要通貨の固定相場の制度=ブレトン・ウッズ体制が終焉した。当時、わが国の円は対ドルで360円の固定相場であった。

 ところがニクソンショックをきかっけにドル売り・円買いが殺到し、わが国の政策当局は固定相場の維持を断念、事実上の変動相場制に移行した。その後も、為替市場は不安定な動向を示し、1971年12月、主要10ヵ国の蔵相が、ワシントンのスミソニアン博物館に集まり固定相場制への復帰が決められた。ただし、ドル・円のレートは、360円から16.88%切り上げられ308円となった。

 しかし、ドル切り下げによる固定相場への復帰で為替市場の動向は収まらなかった。結果として、73年1月には、それぞれの為替レートが自由に変動する、完全変動相場制への移行を余儀なくされた。

 その後、今日に至るまで基本的に円は強含みの傾向を続け、2011年には対ドルで75円台の史上最高値まで円高が上昇することになった。足元のドル・円のレートが108円台(5月12日現在)であることを考えると、過去約50年の間に、円は対ドルで70%も上昇したことになる。