客を見れば店がわかる

 さいとう屋の定番メニューは次の通りだ。冷奴、薬味やっこ(ねぎ、しょうがなどの薬味が10種類)、ハムカツ、納豆キャベツ(大量のキャベツ千切りに納豆)、ハムエッグ、ちくわ磯辺揚げ、さば焼き、セロリと春雨炒め、パスタ類、もやしあんかけやきそば…。どれも200円から300円台。パスタだけは600円から700円。

 他に季節の料理や鮮魚の刺身もある。魚を買ってきてさばくのはイサオの仕事だ。

 いずれのメニューも量が多い。たとえばパスタは一人前120グラム。高級イタリアンの倍の量だ。

 具だくさんの玉子焼きは玉子が2個で、なかに、ごぼう、いんげん、にんじん、玉ねぎ、チャーシューなどが入っている。3人で食べるとちょうどいいくらいだろう。

 量が多いだけが特徴ではない。家庭風のおだやかな味つけがいい。

「かあちゃんは9歳の時におふくろを亡くして、子どもの頃から料理をしていた。だから、料理が上手なんだよ、なっ」(イサオ)

「ええ、料理は好きです。でも、ほんとの家庭料理ですよ。冷蔵庫の中にあるもので、こしらえたものが多いから」(かあちゃん)

「うちの店、ひとりでやってくる人、多いんだ。そういう人を見ると、かあちゃんはすぐに野菜を載せるわけ。キャベツの千切りが多いんだけどさ…」(イサオ)

「そうかしら。そうね」(かあちゃん)

 同店にはひとりで来ている常連客が多い。男子だけでなく、女子のひとり客も少なくない。独身者たちが注文するのは納豆キャベツと玉子焼き。なかにはふたつのおかずの他、ライスをもらって定食風にしている人もいる。ひとり暮らしだと、どうしても、野菜を摂ることが少なくなる。そこで、野菜が入っているメニューに惹きつけられるのだろう。

 さいとう屋の料理は毎日、食べても飽きない。客は「安いから」、「量が多いから」来ているわけではない。味つけが薄目で、野菜が多いから、ここに来る。赤ウインナーやレバカツのようなノスタルジックなメニューも目当てだ。

 家庭料理で、ノスタルジックで、飽きのこない味を出しているのが、さいとう屋だ。