『塵劫記』には
何が書かれている?
(Kisou Kubota)京都大学名誉教授、医学博士。世界で最も権威がある脳の学会「米国神経科学会」で行った研究発表は、日本人最多の100点以上にのぼり、現代日本において「脳、特に前頭前野の構造・機能」研究の権威。2011年、瑞宝中綬章受章。1932年、大阪生まれ。著書に、『1歳からみるみる頭がよくなる51の方法』『赤ちゃん教育――頭のいい子は歩くまでに決まる』『あなたの脳が9割変わる! 超「朝活」法』(以上、ダイヤモンド社)などベスト&ロングセラー多数。
『塵劫記』は、明治末期まで、300種類も木版刷りされたものが残っているといいます。
ですから、200年以上もの長きにわたって売れ続けた江戸の超ベストセラーでした。
いったい木版で何部刷られたのか、正確な数字はわかりませんが、とにかく相当売れたことは間違いありません。
『塵劫記』の本文は、数の呼び方から始まっています。
漢字、縦書きで、
壱番、弐番、参番、律番……と、一、二、三、四と並んでいます。
かけ算の九九も縦書きで、
二二 四、
二三 六、
二四 八、
二六 一二、
二七 一四、
二八 一六、
二九 一八、
と、漢字の数字が並んでいるだけのものです。
続いて、面積の出し方、平方根や立方根の計算法、そろばんの使い方、ネズミ算のやり方など、当時の日常の生活に必要な算術を網羅しています。
『塵劫記』は売れに売れて、海賊版やこれをマネた算術書が出るようになったので、「寛永8年版」に、
「……諸書をきざんで世わたる人、是をうつしもとめて、利のために世にあきなふといへ共、そのくわしきをしらざれば、あやまり見だせる所おおし。されば我書のやまひならんもおもふにくるし」
と巻末に文章を入れ、間違いが増えていることを嘆き、間違いのある海賊版と区別するために、3色刷にしています。