本格中華シェフが「きざみ食」にも対応!
大人気のバリアフリーレストラン
今年6月下旬に、神奈川県横浜市瀬谷区の住宅街にある中華料理店「風の音」を訪ねた。外観はどこの町にでもありそうな店だ。しかし、このレストランは他店にはない特徴を持つ。介護が必要な認知症や車いすの高齢者、障害者が利用可能な「バリアフリーレストラン」なのだ。
店内に入って、最初に気づくのは通路幅や席の間が広いこと。玄関も含めて段差はなく、トイレも車いす利用者がそのまま使えるように、広めに設計されている。そして、最大のポイントが、全てのメニューを個々の嚥下などの問題に応じて、一口大、刻み、ミキサーなどの処理で料理の形状を変えたり、辛さや量を調節したりするなど、カスタマイズしてくれることだ。
運営会社は横浜市とその周辺で認知症高齢者のグループホーム21棟、高齢者住宅4棟などを経営し、スタッフは要介護者の対応に慣れている。
風の音の厨房を預かる中国人料理長も、要介護者への理解が深く、カスタマイズにも丁寧に対応する。味の方も折り紙付き。横浜中華街で働いた経験を持つ本格派だ。
店のWebサイトでは、要介護者、車いす利用者に対応していることを積極的に発信し、集客を図っている。
客層は、運営会社の施設に入る認知症高齢者や車いす利用者などのほか、他社の施設の要介護者が職員を伴って来店することも多い。一方、一般の要介護者が本人の誕生日会を催すため、家族に連れられて来る場合もある。親戚が集まって、10人、20人の大人数のなることも珍しくない。
「要介護者にとって外食は特別なこと。本人は楽しいからか、いつもより食が進む。どのお客様もここまでやってくれる店はないと喜ぶ」と、責任者の中谷国晴常務取締役は話す。
知的障害者の施設がクリスマス会で使うこともあるそうだ。貸し切りの大部屋で、カラオケを楽しみながら、美味しい中華料理を頬張る。あまりにも楽しかったため、玄関先で「帰りたくない」と座り込む人もいる。知的障害者にとっても外食は特別だ。
日本全国に、知的障害者は約74万人、身体障害者は約394万人いる(出所:平成27年版障害者白書)。また、要介護・要支援認定者数は毎年増加し、2016年4月末時点では約622万人(厚労省発表)で、今後も間違いなく増えていく。風の音を例に引くまでもなく、こうした人たちの中には、外食に行きたいと考える人は多いだろう。しかし、そうした切実なニーズに対し、対応できるレストランは非常に少ないのが現状だ。