トランプ大統領の「関税乱発」で“一番しんどい国”の名前【池上彰と増田ユリヤが解説】

アメリカ・ファーストを掲げて関税を乱発するトランプ大統領。その矛先は世界各国にまで及び、世界経済を揺るがしている。だが、そのマイナスの影響を最も強く受けるのは、意外にも“あの国”かもしれない。※本稿は、池上彰、増田ユリヤ『ドナルド・トランプ全解説:世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること』(Gakken)の一部を抜粋・編集したものです。

アメリカがリーダーを降りた結果
世界は「Gゼロ」へと突き進んだ

 国際関係の専門家イアン・ブレマーが提唱した「Gゼロ」(編集部注/Gは、G7やG20のように国際社会を牽引するグループを指す。つまり、Gゼロとは、誰もリーダーがいない世界のこと。)という概念は、もはや単なる比喩ではなく、2025年の世界情勢を表す現実となっています。

 G7やG20といった多国間枠組みにおいて、かつてはアメリカが主導的立場を担ってきました。しかし、トランプは「アメリカ・ファースト」を掲げ、国際社会でのリーダー役を放棄しました。

 問題は、アメリカに代わるリーダー国家が現れていないという点です。

 西側諸国の中で、イギリスはブレグジット(EUからの離脱)の影響と内政不安を抱え、ドイツは連立政権の不安定さと極右政党の台頭に直面し、フランスは中道政党の弱体化と極右勢力の伸長により社会の分断が進行しています。日本も2025年春現在では少数与党政権に転じており、内政基盤の不安定さから、国際社会における継続的なリーダーシップの発揮が難しくなっています。

「世界の警察」不在のスキに
中国とロシアはやりたい放題

 こうした中、アメリカが退いた舞台に、中国やロシアといった権威主義的な国家が存在感を強めつつあります。