中国は以前からこの条文を基に適用除外を宣言している。だから中国外務省がただちに「仲裁法廷が出したいわゆる判決は無効で拘束力はなく、中国は受け入れない」との声明を出したのにも全く根拠がないわけではないし、仲裁裁判所の裁定を中国に強制する手段はない。

フィリピンは対話重視の姿勢も
中国にとって外交上は痛手

 フィリピンがこの提訴をしたのは2013年1月、親米的なベニグノ・アキノ大統領政権下だったが、今年6月30日に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領は国内の華人との関係が強く、中国との経済関係や援助を求め、対話を重視する姿勢を示しており、今回の「勝訴」を振りかざすことは考え難い。

 とはいえ、中国にとって今回の仲裁裁判所の裁定は外交上の痛手ではあり、それを無視して南シナ海の支配と要塞化を推進することは得策ではあるまい。最大の貿易国として、対外友好関係が必要な中国が近隣諸国や米国との関係悪化を冒してまで、南シナ海の確保をはかる第一の理由は、軍事面から見れば弾道ミサイル原潜の待機水域の確保ではないか、と思われる。

 中国は1980年代初期から米国が「夏型」と呼んだ初歩的な弾道ミサイル原潜1隻(射程2000km台のミサイル12基搭載)を持ち、黄海最奥部の遼東湾に配備していた。建造した葫芦島造船所の側で整備に便利だし、当時の仮想敵はソ連だったからシベリア東部の目標に近いという利点もあった。今日、中国は射程約8000kmの弾道ミサイル「巨浪2型」12基を積む「晋型」原潜(8000t)4隻を建造したと見られ、それらは海南島三亜市の基地に配備されている。

 遼東湾の水深は25m程の浅さで、「晋型」原潜は全長13mのミサイルを船体内に立てて積むから、船底から司令塔の頂部までの高さは20m以上ありそうだ。黄海北部も浅いから延々と浮上航走しないと出撃できず、丸見えになってしまう。その点南シナ海は深いから海南島の基地から出ればすぐに潜航できる。

 だが海南島は前面の海が広く開いているから、航空攻撃を受けやすく、外国の潜水艦の接近も容易だ。このため海南島の南東約300kmの西沙諸島の永興島に3000mの滑走路を造り、戦闘機や対空ミサイルを配備し、海南島の守りを固めてきた。

 それには一応の軍事的合理性があるものの、そこから約1000kmも南の南沙諸島に無理をして飛行場を造っても、永興島の戦闘機の戦闘行動半径ぎりぎりで相互支援が難しく、有事の際には孤立しそうだ。