そうして中国は、南シナ海での主権、管轄権、歴史的な権利を一方的に喧伝してきた。しかし、九段線は国際法で認められたものではなく、明らかに身勝手、理不尽な主張だ。

 その主張に従い中国は、各国の主権を無視し着々と海洋進出を進めた。それが周辺諸国との対立を生んだ。

 例えば、中国は、ベトナムに対して海洋資源の共同開発を提案した。交渉が思うように進まないと、中国は何の前触れもなく排他的経済水域での開発を強行した。スプラトリー諸島(南沙諸島)などでは、滑走路や軍港までもが整備され、フィリピンとの対立につながった。

 こうした海洋進出は、“従わなければ力づくで手に入れる”という“力の論理”を誇示するものだ。そうした中国の強引な姿勢が、東南アジア諸国に「中国に飲み込まれる」との恐怖心を与えた。

 2013年1月にはフィリピン政府が、政治的・外交的な対応をやり尽くしたとし、仲裁裁判所に訴えた。中国を国際司法の場に引きずり出し、その身勝手さ不合理さを国際社会に知らしめなければならないほど、フィリピンは追い込まれていた。

 今回の裁定は、直接的にはフィリピンの訴えに対するものである。しかし結論の中で、九段線に歴史的な権利を主張する法的根拠がないと表明されただけでなく、スカボロー礁等は島ではないと明言された意味は大きい。

 つまり、中国が人工島を建設し、排他的経済水域を主張しても、それが国連海洋法条約上、認められないことが明確になった。なお、上訴は認められていない。

 それでも、中国政府は仲裁裁判所の判断に拘束力はないと批判し、試験飛行を行うなど国際司法を無視している。海洋進出には共産党の威信がかかっているだけに、当面、南シナ海での緊張が続くかもしれない。

足元で深刻さを増す中国経済
ドイツなど中国との関係を見直す動き

 一方、日米などの国際社会は中国に法の遵守を強く求めている。中国が反発するだけ国際社会からの批判は強まるだろう。外交政策上の問題に加え、中国は経済のリスクも抱えている。中国は冷静に自国の置かれた状況を考えるべきだ。いたずらに国際社会との対立を深めることは、中国自身の首を絞めることになる。

 一方、足元で中国経済が抱える問題は深刻さを増している。鉄鋼や石炭業界での過剰な生産能力の解消は目処が立たない。その間、中国の一般企業が抱える債務は累積し、GDPの200%までに達した。

 企業収益の下振れが懸念される中、不良債権が増え、債務負担と過剰供給能力がスパイラル的に景気を圧迫する恐れがある。

 国際社会からの批判、経済の先行き懸念の高まりは、中国との関係を見直そうとする動きにつながりやすい。その典型例がドイツだ。