企業がインターネット上のコミュニティを運営すると、どんなことが起こるのか。そうした実例を多数紹介する大規模なセミナー「QON DAY 2016」が、消費者コミュニティの先駆者であるクオン株式会社主催で開催され、当日は754名もの参加者が集まった。今回はそのなかでも、誰もが目にしたことのある日用消費財企業のケースを紹介する。森永乳業株式会社 マーケティングコミュニケーション部長 寺田文明氏のセッションでは、コミュニティによる消費者の意識ベースの変化だけでなく、実際の購買行動の変化にまで踏み込んで分析・調査をおこなった結果が紹介された。
お客様と直接対話するのが、
最高の広告である
森永乳業株式会社マーケティングコミュニケーション部長。1984年森永乳業入社、東京多摩工場、研究所、製品開発部、米国駐在、総務部秘書室、営業本部室を経て、2008年5月より広告部に異動。現在は、飲料、ヨーグルト、冷菓、チーズ等、広告コミュニケーション活動全般に携わる。
※2016年6月1日より広告部からマーケティングコミュニケーション部に改称
森永乳業は、牛乳や乳製品、アイスクリーム、飲料などの食品の製造・販売をする会社です。牛乳やヨーグルトなどの森永ブランドの他、チルドカップコーヒーの「マウントレーニア」やアイスの「ピノ」なども森永乳業のブランドです。チーズの「クラフト」、紅茶の「リプトン」などでは、世界の有名ブランドとも提携しています。赤ちゃんのミルクから高齢者向けの高たんぱく質食品まで、まさに「ゆりかごからシニアまで」をサポートする商品を作っています。
私は2008年から広告部の所属となり、さまざまな商品のマーケティングに携わってきました。その経験から「知覚品質レベルでの差別化は難しい」と痛感しています。私たちがどんなに「このヨーグルトは菌がほかとは違って……」と言ったところで、お客様にはあまり違いを感じていただけていない。私たちの商品はあくまでも選択肢の一つです。だからこそ、お客様視点の情報発信が必要ですし、商品のことを好きになってもらう前に、企業自体が「自分たちのことを考えてくれる企業」として愛されることも必要です。そのためには、お客様と対話をする姿勢を忘れてはなりません。そして、購買などのお客様の行動を引き出すには、感情を動かすメッセージ発信が必要だと考えるようになりました。
広告の仕事に就いて3年ほど経った頃、いろいろな経験やあるきっかけによる気付きから、私は「究極の広告とは、個対個の対話である」という結論にたどり着きました。これは、入社時に観た近江商人の商いの心を描いた『てんびんの詩』という映画の感覚に近いものかもしれません。
コミュニケーションは感情を伴ったメッセージ(Message with Emotion)にするべきであるし、メッセージ発信はお客様視点で考えるべきである。私自身がお客様全員に感情を込めて商品のことを語れるなら、それが最高の広告となるはずです。しかし、計算すると1人5分話すとしても4000年かかります(笑)。ですから、個対個の対話に近づくよう、「代理」するものが必要になってくる。そこで、いま注目しているのが消費者コミュニティです。個対個のエッセンスを残しながら、規模を増幅できる仕組みであるからです。
[PR]