化石を軸に1つにまとまる
9人の人生物語

 本書には9名分の物語がつむがれており、バラバラに思えるそれぞれの人生が化石を軸に1つにまとまっていく。

 いくつかの幸運があったのは確かだが、この発見は決して“たまたま”や“まぐれ”の産物ではない。

 堀田はアマチュアながらも1日6時間の化石探索を何十年も続けていたからこそ、この化石を見つけ、正しく保管することができた。佐藤は穂別博物館では標本が「きちんと保管されているし、記録も正確」であることを知っていたから、この博物館へ足を延ばし、その化石の特異さに気が付いた。中学時代の化石採集ツアーで大いに興奮した原体験があったから、小林は日本人で初めて恐竜研究で博士号を取得し、このプロジェクトを適切に先導できた。

 恐竜を、科学を愛する幾多の者の努力が連なったからこそ、この化石は世に現れたのだ。古生物学研究が少数の天才だけでなく、アマチュア収集家、全国各地にある博物館、科学的発見の価値を理解する自治体など多くのものに支えられているのだということを痛感する。

 発見から発表までに10年の時を要したのは、その化石が専門家の目に触れるまでに長い時間が経過したことに加えて、恐竜発見というニュースが「取り扱い注意事項」であるためだ。

 1976年に三笠市でのティラノサウルス類の新属新種の化石発見は大ニュースとなり、その発見を契機として市立博物館まで建設された。ところが後にその化石は恐竜ではないモモサウルス類であることが学術的に確かめられ、大きな失望だけが残った。古生物学に携わるものは皆この事件を知っており、恐竜発見の報告には一層慎重になるという。