厚生労働省は来年1月から介護休業が取りやすくなるように取得要件を緩和した。現状では、介護休業の取得率は3%程度と低く、取得しても元のポストに戻れないなど取得者が不幸になることも多いという。そこで、NPO二十四の瞳理事長で社会福祉士の山崎宏氏に介護休業や介護休暇の現状と問題点と聞いた。(ダイヤモンド・オンライン編集部 山本猛嗣)

企業側の「本音」と「建前」
介護休業を取得すると不幸になる

――介護休業は来年(2017年)1月から要介護度が軽度でも取得可能となり、通算93日まで3回を上限に取得できるようになるなど、条件が緩和されました。それでも、山崎さんは「なるべく介護休業は取得しない方が良い」と相談者にアドバイスされているようですが、なぜでしょうか。

 多くの場合、企業側の「本音」と「建前」が違うからです。多くの大企業では、対外的には、介護休業や介護休暇の制度がもの凄く手厚いような説明がなされています。介護休業は法律上の制度では3ヵ月(最長93日)ですが、企業独自の制度ではもっと長く設けているケースもあり、2年間取得できる企業もあります。

やまざき・ひろし
NPO二十四の瞳・理事長、社会福祉士三田会常任幹事、認知症学習療法士、医業経営コンサルタント。1961年、東京都出身。慶大卒後、外資系コンピューター会社、コンサルティングファーム、医療系メディア、複数の病医院を経て現職。シニア世帯向け24時間365日対応の電話相談サービス「お困りごとホットライン」には、過去10年間で約6000件の相談が寄せられている。病医院や行政との折衝に加え、ここ数年で急増した「終のすみか探し」「問題行動を伴う認知症対応」「介護離職回避」「家族関係の修復」等の問題解決に定評がある。

 しかし、実態は休もうとすると、上司から嫌みを言われたり、休んでから復帰すると、以前のポストがなくなっていたりするケースが多い。休んでいる間も職場からひっきりなしに連絡がある、あるいは定期的な連絡を強要される。自宅で仕事をやらざるを得ないことも多いのです。

 現実問題として、多くの方が最初のうちは変則勤務や有給休暇で介護に対応しています。しかし、そのうちにだんだん立ちゆかなくなり、介護休業を取らざるを得なくなるというケースが多い。そして、複数回の介護休業や介護休暇を取得していく結果、現在のポストを失ったり、職場を離れざるを得なくなるという実態が目立ちます。

――実際に相談されたものには、どんなケースがあったのでしょうか。

 まず、ある都市銀行に勤務していた融資部長のケースです。一度、93日の介護休業を取り、一旦は職場に復帰したものの、どうしても再度休まざるを得なくなりました。

 1ヵ月後に再度、介護休業の申請をしたところ、直属上司から「またか。前回はチームの皆でなんとか穴を埋めたが、またとなると、正式に君のポストに後任をアサインせざるを得ない。それくらい、君にもわかるだろ」と言われたそうです。