モノの重量と人間の重量はどう違うのか?

 同法64条の女性規定を受けて厚労省は、「女性労働基準規則」を設けており、その2条と3条で「女性労働者は30kgの断続作業、20kgの継続作業を禁止」とある。持ち上げや移動のことである。すると施設や病院はすべて法令違反になるのか。

 ところがである。厚労省雇用均等児童家庭局は「この労基法の対象は重量物です。重量物とはモノのことだから人間は含めない」と素っ気ない。

 もうひとつ、厚労省はつい3年前に「職場における腰痛予防等指針」を19年ぶりに改訂し発表した。「成人男性は重量物が体重の40%以上、女性は24%以上を扱わない」という基準を記しているが、またしても「人の抱き上げ作業は含めない」となっている。

 モノの中に、なぜ人間が入っていないのだろうか。「重量物とは製品、材料、荷物等のことを指す」と規定しているものの、その理由はさっぱりわからない。職員が上手に抱き上げれば、人間の体重は軽くなるとでも見ているのだろうか。

 介護や医療の現場は「労働職場」と見なされていないようだが、3年前の同指針で新たに介護、看護の現場作業に言及した。

「移動介助、入浴介助及び排泄介助における対象者の抱き上げは、労働者の腰部に著しく負担がかかることから、原則として人力による人の抱き上げは行わせないこと」と記した。つまり、抱き上げを禁止したのである。だが、残念ながら罰則規定はない。注意喚起に止まっている。

オランダのロッテルダムの認知症高齢者のグループホームの部屋にもリフトがあった

 欧米豪でも1970年代頃は今の日本と同様だったが、90年代の後半から人力での抱き上げを禁止する法令を次々打ち出された。これを機に、補助具の開発が一気に進んだ。

 英国では93年の「人の手で行う移動に関する規則」で、17kg以上の持ち上げが禁止された。介護リフトが最も普及している豪州では1985年に指針が示され、以降、看護師団体が腰痛防止や離職対策として強く訴え続けた。

 看護師として豪州で勤務していた日本ノ―リフト協会代表の保田淳子さんは、「看護師団体の運動がヴィクトリア州と南オーストラリア州の州政府を動かした。それを各州が受け入れてリフトの常備基準を作り出した。日本と決定的に違うのは、医療現場の腰痛が労災として認められるので、経営側がその費用対策として取り組んだことも大きい」と、解説する。

 保田さんは看護師の運動を肌で感じ、帰国後の2008年1月に日本ノ―リフト協会を立ち上げ、リフトの啓発に取り組んでいる。

 日本でも、労働安全衛生法に基づき製造業などでは自動化、省力化が相当に進んだ。厚労省の2008年の発表では、腰痛が60年代には32%あったのが19%に下がったという。だが、「保健衛生業では増加」と指摘している。

 海外と国内産業では、人力から自動化への転換が成されたにもかかわらず、国内の医療・福祉の分野だけが取り残されている。なぜなのか。