「QON DAY 2016」に登壇した編集工学研究所所長の松岡正剛氏

インターネット上の消費者コミュニティ運営のパイオニアであるクオン株式会社が、6月にセミナーイベント「QON DAY 2016」を開催した。当日は754名が来場し、消費者コミュニティ導入企業の実践報告や有識者の基調講演が行われた。

クオンという社名は、「Quality of Network」の頭文字Q、O、Nをとって命名されている。ネットワーク時代の今こそ、まさにその「質」が問われているからだ。では、「Quality of Network」が意味する、多様で上質なネットワークとは何なのか。この大きなテーマに挑むのは、編集工学研究所所長の松岡正剛氏だ。クオン・武田隆社長の著書『ソーシャルメディア進化論』を自身の書評サイト「千夜千冊」で取り上げ、対談もおこなったことがある松岡氏が考える、ネットワークの「質」とは。

ネットワーク時代に見直すべき、
南方熊楠の「萃点」とは

当日会場で配られたクオン株式会社広報誌「Q・O・N」の特別編集号

 本日配られたパンフレットの表紙に、消費者コミュニティで生成されるネットワークのビジュアルイメージが載っていますね。これを見た時に、私は南方熊楠がつくった「萃点(すいてん)」という言葉とドローイングを思い出しました。熊楠は広範囲の分野で研究をおこなった人でしたが、なかでも粘菌類の研究で歴史に大きな名を残す発見をいくつもしました。その粘菌を見ているとき、彼はネットワークについて考えたのです。

 フランスのポストモダン思想では、植物の根が生えるようなネットワークを「リゾーム」と呼びます。ネットワークというと、系統樹のように木の上の方に広がっていくという考えが主流でしたが、必ずしも上だけがネットワーク化されるわけではない。蓮や竹の地下茎のように、土壌でもネットワークが伸びる。そうしたものが「リゾーム」です。このリゾームはニューロンのネットワークのように伸びていき、その上にコミュニティやコモンズ、ソサエティというものができあがります。そして、そのネットワークのあちこちには「萃点」がある。一種の複合ノードのことです。ハブは寄り集めですが、「萃点」はすべてがそこから発して戻ってくるのです。さまざまな物事のことわりが通過し、交差する地点です。そんなことを、消費者コミュニティのネットワークのビジュアルイメージを見て考えました。

 アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドという、有機体論的自然観を提唱し、『プリンキピア・マテマティカ(数学原理)』を著したイギリスの哲学者がいます。ホワイトヘッドは「ネクサス」という概念を提唱しました。これはおもしろい言葉で、ネットワークされたもの、あるいはネットワークされつつあるものを意味します。後に、ヘンリー・ミラーが同名の小説を書いていますね。