20年もの長きにわたって低迷を続ける日本経済を、気鋭の経済学者とともに検証する。第4回は、伊藤隆敏・東京大学大学院経済学研究科教授に聞く。

──日本経済の現状をどうとらえているか。

伊藤隆敏(Takatoshi Ito)
東京大学大学院経済学研究科教授 1950年生まれ。一橋大学経済学部卒業、米ハーバード大学大学院博士課程修了。経済学博士。米ミネソタ大学助教授、一橋大学教授、国際通貨基金上級審議役、大蔵省(現財務省)副財務官などを経て2004年より現職。専門は国際金融論、日本経済論、マクロ経済学。06~08年経済財政諮問会議の民間議員を務める
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 潜在成長率の低下はまぎれもない事実だ。1980年代には4%前後だったが、現在は1%程度まで下降している。それはなにより労働人口の減少がもたらすもので、労働者1人当たりの生産額が同じでも、労働者の総人口に占める割合がどんどん低下しており、しかも総人口も減少しているため、GDP成長率で見れば1.5%程度のマイナスの下駄を履かされているという状況にある。

 労働人口の減少を補填するには、労働生産性や、イノベーションを反映する全要素生産性の上昇が必要だが、グローバリゼーションの果実を受け取るような産業構造は実現せず、国家戦略が描けていない。これこそ深刻な難題である。

 そしてまもなく、団塊の世代が退職の時期を迎える。あと5年もすれば労働市場は様変わりする。想定された未来だったにもかかわらず、それに対する備えは、ほとんどなされてこなかった。

──産業構造や国家戦略に、どのような矛盾があるか。

 成長が見込まれる分野、労働生産性の高いセクターに人材が動くような政策が取られているのか、むしろ衰退産業に人材を固定化させてはいないか、という疑問を抱かざるをえない。

 たとえば、米作農家を手始めに実施される戸別所得補償制度では、大規模化にブレーキをかける。これでは、規模の経済を働かせ、1人当たりの収穫量、収穫収入を増大させることができない。つまり生産性を上昇させることと、明らかに矛盾する。

 また、ものづくりへの固執にも限界がある。長期的にいえば、デジタル技術の進展によるモジュール化、ITの進展による自動化・精密化は進んでいくわけであって、金型産業は日本の要だと胸を張ってみても、だんだんと新興国メーカーに侵食されていくのが現実だ。だからこそ、イノベーションが必要になるわけだが、企業もそれをおろそかにしている。

 一方、OECD(経済開発協力機構)は日本のサービス産業の生産性の低さを指摘しているが、なかには生産性がきわめて高い領域や、サービスの質は高いがその対価を正当に受け取っていない領域も混在しており、成長余力はある。政府はそのうち超過需要のある医療、介護、育児支援分野を成長戦略の柱として位置づけているが、景気刺激策としてではなく長期戦略として、これらを育成する必要がある。