20年もの長きにわたって低迷を続ける日本経済を、気鋭の経済学者とともに検証する。第5回は、岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授に聞く。
東京大学大学院経済学研究科教授 1961年生まれ。京都大学経済学部卒業、大阪大学大学院博士前期課程修了、同博士後期課程退学。経済学博士。大阪大学助手、京都大学助教授、一橋大学教授を経て2005年より現職。専門は公共経済学。08年日本経済学会・石川賞受賞。主な著書に『マクロ経済学』(共著、有斐閣、10年)。
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“今回のデフレ”は脱却のメドあり
──日本経済の現状を、どうとらえているか。
リーマンショックによって、世界には2種類の危機が起きた。まず先進国に金融危機が広がった。それによって新興国では輸出が急減、国内総生産(GDP)が急低下した。日本は先進国ではあるが、新興国型のショックを被った。そして、今はその回復過程にある。
また、リーマンショックで日本はデフレに逆戻りしたが、“前回のデフレ”とは性質が違うことを認識すべきだ。性質が違えば、対応策も変わる。“今回のデフレ”は、前回と比べれば短い期間で回復する見通しだ。
──日本のデフレは、2つの期間に分けられるのか。
形式的には消費者物価指数のコアコアCPI(酒類以外の食料とエネルギーを除いたもの)上昇率は、2008年に0%を超えた。CPIには上方バイアスがあり、GDPデフレータの成長率はずっとマイナスだから、デフレは続いているという見方にも一理ある。しかし、デフレの背景にある経済の問題が違っていることを認識するのが重要だ。その意味で前回のデフレ、今回のデフレ、と分けて考えるほうがいい。
1990年代末から始まった前回のデフレは長期にわたり、いつ抜け出せるかが不透明な状態だった。だが、今回は輸出の急減という原因が明らかだ。一時的に大きなショックが加わったことで、日本の生産設備の収益率が低下している。一方で、世界経済の需要も回復している。
ただし、南欧でソブリン危機が発生、米国の失業率が高止まりするなど、懸念材料はある。だが、時期が遅れてもデフレからの回復の基調は変わりがない。
──前回のデフレはなぜ、脱却の見通しが立たなかったのか。
金融機関の抱える不良債権の処理が進まず、金融仲介機能が正常に働き始めるという道筋が描けなかったからだ。ようやく完全処理のメドが立ち、一方で長い金融緩和に支えられた円安による輸出増もあって、景気が回復し、コアコアCPIで見たデフレを脱却できたのが08年だった。