業務ソフトウェア大手のSAPにとって、技術革新とは人事戦略なしにはあり得ない。リーダーの4人に1人を女性にする目標を掲げ、自閉症者の積極的起用もその一部だ。そしてもちろん、人事でのデータ利用も進めている。今年4月にSAPのエグゼクティブボードに就任した最高HR責任者(Chief Human Resources Officer)のステファン・リーズ(Stefan Ries)氏に、変化に強い組織作りをキーワードにSAPの取り組みについて話を聞いた。(取材・文/末岡洋子)

SAPで人事を率いるステファン・リーズ氏。8人しかいないエグゼクティブボードの1人だ Photo by Yoko Sueoka

――リーダー職に占める女性の比率を25%にする目標を掲げています。

 チームの多様化が進むと企業のイノベーションは高くなることは、数々の調査で裏付けされています。IT業界は歴史的にも男性が独占してきた業界です。そこで6年前にジェンダー(性)、国籍、宗教などさまざまな面での多様化を図ることにしました。当時、女性リーダー、マネージャーの比率は20%以下でしたが、2017年には最低25%にするなどの目標を掲げました。現在比率は24.1%になりました。大きな成果を遂げています。

――どんな策を取ったのですか?

 まずはアウェアネス(認知)です。組織全体にダイバーシティの必要性を理解してもらいました。

 次に、才能ある女性従業員をリーダーシップや管理、統括するポジションに就いてもらいました。ロールモデルというよりも、行き先を伝える灯台のような存在です。アジア太平洋・日本地域プレジデントのアデア・フォックス・マーティン(Adaire Fox Martin)、米国プレジデントのジェニファー・モーガン(Jennifer Morgan)、CMOのマギー・チャン・ジョーンズ(Maggie Chan Jones)などです。

 3つ目として、環境の構築です。才能ある女性がリーダーに就きたくない大きな理由は、家庭や子供を犠牲にしたくないから。自ら手を上げてもらえる環境を提供するために、トレーニングやディスカッションをしています。

 現在フォーカスしているのは、伝統的、文化的に女性リーダーが育ちにくい地域での追加的な取り組みです。具体的には、日本、インド、フランス、ドイツなどで、これらの国は米国やイスラエルなどと比べると機会が均等に与えられていません。

――日本でも女性活躍新法が施行されましたが、一方で女性の側からは“現状で満足している”“昇進したくない”という声もあります。

 日本だけの問題ではありません。SAPでは、グローバルで「LEAP」(リープ)というプログラムを展開しています。才能ある女性を制限しているものを緩和することが目的で、どうして昇進したくないのかを一緒に考えたり、昇進した女性の話を聞く機会も用意しています。思い込みだったという女性は多く、障害は能力よりも心理面にあることがほとんどです。

 雇用主が柔軟性を示すことは大切です。オープンに体験を話すことも重要で、男性が育児休暇を取得した体験を話すこともあります。