
日本消化管学会編の「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」によると、便秘とは「本来、排泄すべき便が大腸内にとどまることで、便が硬くなって排便回数が減ったり、快適に排泄できないことで、いきみ過ぎや残便感、肛門の閉塞感などで排便できないと感じる状態」だ。ひらたくいうと、便を出したくてもカチカチで「出ない、出せない」状態。
慢性便秘症は女性に多いが、加齢や身体活動量の低下、一部の薬剤の副作用が発症リスクとなるので、一定の年齢以上では男性も悩まされる。近年は便秘が心血管疾患の発症、進行リスクを高めることも知られるようになった。
高知大学医学部附属病院の研究チームは、高知県内の6病院が参加した登録観察研究から、急性心不全で入院した患者の2年以内の生存率と便秘の関係を分析している。
対象は、2017年5月~19年4月に急性心不全で入院した患者715人(平均年齢81歳、女性48.8%)。このうち124例が、継続的に薬を必要とするほどの便秘を合併していた。
入院後2年以内に死亡した155人について解析した結果、死亡率と有意に関係していたのは、肺の病気である慢性閉塞性肺疾患(COPD)と身体虚弱(フレイル)、そして便秘だった。さらに便秘群と非便秘群でサンプルをそろえて解析したところ、全ての原因による死亡も、心血管死のどちらについても、便秘群で有意に高いことが示されたのだ。
研究者は便秘が心不全を悪化させるメカニズムについて、「排便中のいきみによる血圧、脈拍上昇や、便が腸内にとどまることによって腸内細菌叢が変化した影響がある」としている。
これとは別に、仙台市医療センター仙台オープン病院の研究者の報告もある。それによると、急性心筋梗塞で入院した比較的若い患者(平均年齢68歳、男性76%)でも、慢性的な便秘があると入院中~半年以内に心不全を発症して再入院するリスクが、非便秘群より有意に高かった。たかが便秘、されど便秘、なのである。
便通を改善するとの報告がある食物は、キウイ、プルーン、そしてヨーグルトなどの乳酸菌食品だ。心臓を守るために試してみよう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)