地域密着型と、局所優位の戦略の違いとは?
なお、局所優位は「地域密着」のコンセプトとはまったく異なる概念です。昔から食料品や雑貨を扱う小さな店舗が地域にあっても、大型店が進出すれば根こそぎ売上は奪われます。数百メートルの違いなら、鮮度がよくて安く、多くの品ぞろえがある大型店のほうが魅力的です。
局所優位があるのは、地域にライバルとなる店舗がない、新たに進出した大型店舗のほうなのです(古くから営業していることは、近所の消費者との関係で局所優位になっていない)。
そこに古くから存在するだけでは、局所優位は発揮されないのです。例えば、大型店舗に対抗する局所優位を作るとすれば「クルマを持たない消費者への利便性」などが挙げられるでしょう。
高齢者の方、頻繁に買い物に出かけられない幼児のいる主婦などが、クルマで出かけずに、大型店舗で買い物をするのと同じレベルの買い物をできるサービスなど。もし多店舗展開するなら、同種の消費者が多い全国の特定地域に絞り込む。
伝統産業のようなケースでは、局所優位は「精緻な製造技術」「古くから守られた伝統」です。この場合、販売対象を周辺の地域住民に限定するメリットはなく、インターネットなどで全国のコアなファンに自社の製品を販売する努力をすべきでしょう。
「軍事作戦が始まると、ソ連の将兵が死に、アフガン軍の兵が死に、ムジャヒディンや平和に暮らしていた一般住民が死んだ。だが、作戦が終わって撤退すると、何もかも以前と同じ状況に戻ってしまう」(書籍『アフガン侵攻』ソ連のハバロフ大尉の言葉)
局所優位を基盤としない戦いは、努力を傾けても成果を継続できません。ソ連軍は初期の正面戦闘こそ優位でしたが、ゲリラは局所優位を確立していきました。さらに言えば、ソ連軍は拠点の占拠には局所優位を持っていなかったのです。
局所優位の問題点、そのワナに陥らないこと
ゲリラ的なビジネスが持つ「局所優位」は、規模の小さな側には甘美な響きを持つものです。確かに、特定の場所、特定の距離ではゲリラ的なビジネスは有利であることが多い。
コストについて言えば、たとえば店主自らが調理する料理店。これは調理師の給与を支払わなくても済むという点で、まさに低コストです。しかしこれにもワナがあります。
あらゆる局所優位は、それに依存することでむしろゲリラを抜け出せなくなるのです。店主が自ら調理する店では、調理師の雇用や管理をしなくて済むメリットがある一方で、店主の技術が店のレベルを決めてしまう制限から抜け出せません。
かつて人通りが多い道にあった商店街では、その人の流れに依存したことでビジネスの更新が遅れ、最後はシャッター街になってしまったケースは無数にあります。ゲリラにも進化が必要なのです。
繁盛し続けている個人の飲食店は、たいていの場合メニューや素材を季節に応じて変化させ、味も進歩を繰り返しています。それは「優位な点を進化させる学習」が、日々の経営の中に織り込まれているからです。
人通りの消えた商店街で、ポツンと1店舗だけ現在も元気に営業している店があるならば、店舗販売からインターネットへ切り替えたことに成功したのかもしれません。あるいは仕入れ販売ではなく「素材にこだわり製造から店舗で始める」など、新しい差別化要素を取り入れた結果である場合がほとんどなのです。
局所優位(特に低コストと結びつく場合)は、ソ連の近代化部隊を最後は撤退に追い込むような、時として素晴らしい威力を発揮します。しかしそれに慢心すれば、やがてゲリラ側の生存領域が消滅してしまうワナも待ち受けているのです。