なぜ根拠のないダイエット法が世間に広まってしまうのかダイエットする時、「誰でもすぐに痩せられる」そんな魔法は存在しない!

 ダイエットは現代人の最大の関心事の一つだ。多くの国で肥満が野火のように広がっていくに連れ、ありとあらゆるダイエット方法が世界中で発明されてきた。あまりにも大量のダイエットが開発されたため、その中から相反する2つを見つけるのは難しいことではない。脂肪の摂取を控えるべきだと訴えるダイエットもあれば、脂肪は好きなだけ摂ってよいというものもある。三食を規則正しく食べることを推奨する方法もあれば、一日一食の方がより健康的なのだと謳うものもある。一体全体、わたしたちはどのようなダイエットをするべきなのか。

なぜ根拠のないダイエット法が世間に広まってしまうのか『ダイエットの科学――「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』
ティム・スペクター(著)、熊谷玲美(訳)
白揚社
432ページ
2500円(税別)

 ロンドン大学キングス・カレッジ遺伝学教授である著者ティム・スペクターは、巷にあふれる多くのダイエットが神話に過ぎないことを、科学の力で明らかにしていく。政府が推奨する公的な栄養の摂取量ですら、そのほとんどには明確な根拠がないというのだから、どれほど裏付けのない手法が流布しているかは推して知るべしである。

 本書『ダイエットの科学――「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』は脂肪・糖質・ビタミンなどの栄養素の働きから、腸内微生物と代謝の関係や進化と食事の相互作用まで、実に幅広い分野をカバーしている。そして、それぞれの分野で何が科学的に明らかで、何が不確実なのかを丁寧に切り分けながら議論を進めていく。多くの科学論文をベースに展開されていくものの、著者の体験談やあっと驚く事例が数多く参照されているので、楽しい読書体験と伴にあやしいダイエットから身を守るための知識を得ることができる。ダイエットに興味のある人が先ず読むべき、決定版的な一冊だ。

 科学の力を用いてあらゆる角度からダイエットの真実に切り込んでいく本書ではあるが、どれだけじっくり読み込んでも、この本から「誰でもすぐに痩せられる方法」を見つけることはできない。むしろ、著者はそんな魔法は存在せず、夢のような宣伝文句からは距離を置くべきだということを教えてくれる。さらには健康的な食事、健康的な生活とはどのようなものかについて、改めてじっくりと考える機会までも与えてくれるのだ。