大学教授による学生への嫌がらせ、「アカデミック・ハラスメント」。当事者が大人同士であるがゆえ、なかなか表面化しにくい傾向にある。なぜ教育者である大学教授はハラスメントに走ってしまうのか?(取材・文/清談社)

「教授に嫌われたら終わり」
知られざるアカハラ被害

「学校辞めるか死ぬか選べ」大学教授の“アカハラ”恐怖の実態アカハラという概念こそ最近できたものだが、大学教授と学生のあいだでは、古くからハラスメントが横行してきた。泣き寝入りする学生が多いが、事務局や学部長などにきちんと相談をすれば、解決されるケースがほとんどだ

 今年7月、埼玉県の小学校で教師が特定の生徒に対し、「飛び降りろ」「明日から来るな」といった暴言を吐いたり、嫌がらせをした事実が発覚し、大問題へと発展した。

 過去にも、小学校、中学校の教員による生徒へのいじめは、たびたび問題になってきたが、一方であまり表ざたにならないのが、大学教授による暴言や理不尽。いわゆる、「アカデミック・ハラスメント」だ。先日、東京学芸大学の男性教授がアカハラで処分されたが、明るみに出るのは氷山の一角である。

 都内の中堅私立大学文学部に通っていたAさん(25歳・男性)も、アカハラの被害に遭っていたという。

「うちの学科は、何より“教授に気に入ってもらうことが重要”という風潮がありました。逆に言うと、嫌われたら最後、学生生活終わりです。ある日、ささいなことがきっかけで教授の機嫌を損ねてしまったことがありました。するとその日から、『学校辞めたら?』『なんでいるの?』と毎日詰め寄られるようになり、挙句、『学校辞めるか、死ぬか、選びなよ』とまで言われました。今考えると明らかにアカハラなんですけど、そのときは感覚が麻痺していて、わからなかったんです。ただ、耐えるだけでした」

 アカハラは、卒業まで続いたという。しかし、Aさんが卒業してから数年後、予期せぬ出来事が起きる。その教授がアカハラで訴えられたのだ。

「僕と同じような被害に遭った後輩が、専門窓口に駆け込んだという話を人づてに聞きました。それを聞いたときに、あれはアカハラだったのかと、やっと気づいたんです」

 Aさんのように、明らかなアカハラであっても、気づかない、耐えるだけ、という被害者は多い。とはいえ近年、アカハラの相談件数は増えつつあるとNPO「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク」の代表・御輿久美子(おごし・くみこ)氏は言う。

「新規のアカハラの相談件数は、年間250~300件ほどあります。トータルだと800件くらいです。アカハラという言葉が世間に認知されたことで、相談に訪れる人が増えたのだと思います」