旅行会社のエイチ・アイ・エス(H.I.S)が2010年4月に傘下にいれたハウステンボス(HTB、長崎県佐世保市)。同社は子会社のHTBクルーズを通じて、来春、長崎―上海間の国際フェリーの本格運行に乗り出し、今年11月3日にその第1便が1往復、運航する。その就航を前に、長崎県とHTBの認識ギャップも見えてきた。

 H.I.S会長も務める澤田秀雄HTB社長は、フェリーにおけるカジノを視野に入れている。パナマ籍の中古船を購入し、日本の法律に触れない公海上ではカジノの運営も理論的には可能だ。カジノなどの船内イベントで稼ぐことによって、乗船賃を引き下げることもでき、H.I.Sの旅行事業とのシナジー効果が大きい。

 フェリーの本格運航は来年春。来年1月下旬から週1度程度の不定期運航を開始し、3月に週3回の定期運航を目ざすとしている。H.I.S首脳は「スケジュールも決まっていない」としたうえで、「カジノ実現に向けて準備、研究を進めている」と意欲をみせる。

 それに対して長崎県の担当者の見方は冷ややかだ。「世間的な風当たりもあり、来年、カジノを実現するのは無理だろう」と言い切る。

 11月3日の第1便にも当然、カジノはない。HTBの国際フェリー「オーシャンローズ」のお披露目であるものの、1往復したら長崎県の造船会社、佐世保重工業にて再び内装工事が予定されている。つまり、豪華なシアターなどが登場するのはこの後だ。

 興味深いのは第1便の中身。主催は長崎県で、長崎から乗船するのは、日本の観光・旅行関係者やメディアが大半だが、一般枠も50人程度ある。11月3日に長崎港をたち、約24時間かけて上海に到着。同地で1泊して飛行機で帰ってくるが、その費用は3泊4日で13万円。乗船代7800円のほかに、2000円の燃油サーチャージ、それに客室代(最多は4人部屋で4万円)がかかる。

 出発1ヵ月を前にした今、主催する旅行会社は「キャンセル待ち」を強調するが、業界関係者にいわせれば「一般客の食いつきが悪く、申し込んだのも行政とのつながりがある人が多い」。

 時間がかかり、かつエンターテイメントの少ない客船ビジネスがうまくいかないことが明らかにもなったわけで、業界内では「魅力的なエンターテイメントがなければ採算がとれないと、HTB側がカジノの必要性を強く訴える可能性が高い」とみられる。

 HTBと長崎県の攻防がこれから表面化する。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)