愛犬を「人質」に離婚応じぬ妻、夫婦の確執に巻き込まれるペットの悲哀(上)写真はイメージです

夫婦が離婚の話し合いをするとき、子どもの親権をめぐってもめることはよくあります。実は、子どものいない夫婦にも似たような確執が生じることがあります。それはペットの「飼育権」。ペットは家族も同然と考える夫婦が離婚せざるを得なくなったとき、どちらがペットを引き取ればいいのでしょうか。今回は、愛犬の引き取りを巡って離婚の話し合いが膠着状態に陥り、家庭内別居を続ける夫の苦悩をお伝えしましょう。(露木行政書士事務所代表 露木幸彦、文中は仮名)

今やペットは家族も同然
人間の子どもより「親権」は難しい

「実は……パパとママは離婚するの。でも心配しないで。これからもパパはパパだし、ママはママだから」

 そんなふうに結婚生活に区切りをつければ、夫婦は赤の他人になってしまうものですが、それでも子の父、母であることに変わりはありません。しかし、海外はともかく国内には共同親権という制度はないので、どちらか一方が親権を得て、もう一方が親権を失うことは避けられません。そのため、離婚の際に親権をめぐって夫婦がもめることは、よくあります。

 とはいえ、我が子の右手を夫が握り、左手を妻が握り、子どもが「痛い!」と言っているのに腕がちぎれんばかりの力で引っ張ろうとするのは、決して「子どものため」にはならないないでしょう。「パパとママ、どっちがいい?」と尋ねて、本人の気持ちを尊重するのが真っ当なやり方です。仮に協議で決着がつかず、調停離婚になった場合も、子どもが一定以上の年齢であれば本人の意思が尊重されることもあるので、やはり子どもの意思を第一に考えるべきです。

 ところで、DINKS(子がいない夫婦)にとってペットは家族も同然。我が子のように愛情をかけて大事に育てている夫婦が、不運が重なって離婚せざるを得なくなったとき、どちらがペットを引き取ればいいのでしょうか。

 いくら飼い主と心が通じ合っていても、残念ながら、ペットは人間の言語を話すことができません。「パパとママ、どっちがいい?」と尋ねても、ペットの気持ちを汲み取ることは難しく、夫は「俺だと言っているよ!」、妻は「いや私でしょ!」と自分勝手に解釈し始めて、収拾がつかなくなる可能性があります。

 週の半分は夫、もう半分は妻のところで過ごすという手もなくはありませんが、いかんせん離婚した「元」夫婦同士です。二度と顔を見たくないという二人では、ペットの引き渡しもままならないでしょう。

 このように考えると、実は人間の子どもの「親権」を決めるより、ペットの「飼い主」を決める方が厄介かもしれません。今回の相談者は、この「ペットの取り合い」で頭を悩ませている小松治さん(36歳)です。