吉田 都
写真 加藤昌人

 現代のドガと呼ばれたロバート・ハインデルは、生前好んで吉田都を描いた。「私の踊りの癖まで見える」というその絵は、世界の頂点に爪先立ちする孤独な緊張感までくみ取っていた。

 17歳で英国留学の切符を手にし、23歳でサドラーズウエルズ(現バーミンガム)ロイヤルバレエ団のプリンシパル(最高位)に上り詰め、30歳で世界三大バレエ団、英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルとして迎えられた。

 天賦の身体能力に裏づけされた、ミリ単位の妥協も許さない卓越したテクニックと、抑制されながらも余韻を残す格調高い情感表現を、世界中が喝采した。

 しかし、「いつも崖っ縁だった」。一流のダンサーたちの羨望と嫉妬の視線に晒されるプレッシャーと、西洋人に対する容姿の劣等感。崩れそうになる自分を立て直し、過酷な鍛錬に追い込んでいった。「最初の一年は泣いてばかりいた。来年日本に帰れる、それだけが支えだった」。だが、20年以上も異国で一人、ひたむきに闘い続けた。

 華奢な体つきと、まるで子どもに絵本を読み聞かせているような穏やかな語り口。どこにそんなたくましさが潜んでいるのか。「踊るのが好き」。どんな逆風に晒されても、最後にたどり着くこの思いに向き直ることによって、張り詰めた糸は、しなやかな強さを蓄えたのだ。

 40歳を超えた今も、英国と日本の舞台で観客を魅了し続ける。「踊ることの喜びをかみ締めながら」。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)

吉田 都(Miyako Yoshida)●バレエダンサー 1965年生まれ。83年ローザンヌ国際バレエコンクール、ローザンヌ賞。84年サドラーズウエルズロイヤルバレエ団入団、88年プリンシパル。95年英国ロイヤルバレエ団プリンシパル(現ゲストプリンシパル)。2006年熊川哲也Kバレエカンパニーに移籍。07年紫綬褒章、大英帝国勲章。10月より「コッペリア」上演。