人は自分の死を自覚した時、あるいは死ぬ時に何を思うのか。そして家族は、それにどう対処するのが最善なのか。
16年にわたり医療現場で1000人以上の患者とその家族に関わってきた看護師によって綴られた『後悔しない死の迎え方』は、看護師として患者のさまざまな命の終わりを見つめる中で学んだ、家族など身近な人の死や自分自身の死を意識した時に、それから死の瞬間までを後悔せずに生きるために知っておいてほしいことを伝える一冊です。
「死」は誰にでも訪れるものなのに、日ごろ語られることはあまりありません。そのせいか、いざ死と向き合わざるを得ない時となって、どうすればいいかわからず、うろたえてしまう人が多いのでしょう。
これからご紹介するエピソードなどは、『後悔しない死の迎え方』から抜粋し、再構成したものです。
医療現場で実際にあった、さまざまな人の多様な死との向き合い方を知ることで、自分なら死にどう向き合おうかと考える機会にしてみてはいかがでしょうか。(初出:2019年2月28日)

なぜ老衰が
理想的な看取りなのか

後閑愛実(ごかん・めぐみ) 後閑愛実(ごかん・めぐみ)
正看護師。BLS(一次救命処置)及びACLS(二次救命処置)インストラクター。看取りコミュニケーター
看護師だった母親の影響を受け、幼少時より看護師を目指す。2002年、群馬パース看護短期大学卒業、2003年より看護師として病院勤務を開始する。以来、1000人以上の患者と関わり、さまざまな看取りを経験する中で、どうしたら人は幸せな最期を迎えられるようになるのかを日々考えるようになる。看取ってきた患者から学んだことを生かして、「最期まで笑顔で生ききる生き方をサポートしたい」と2013年より看取りコミュニケーション講師として研修や講演活動を始める。また、穏やかな死のために突然死を防ぎたいという思いからBLSインストラクターの資格を取得後、啓発活動も始め、医療従事者を対象としたACLS講習の講師も務める。現在は病院に非常勤の看護師として勤務しながら、研修、講演、執筆などを行っている。<写真:松島和彦>

 先日、「点滴の量を減らしましょう」と医師から提案されたご家族が、こう言いました。
「点滴しなかったら、弱っていくんですよね。老衰じゃかわいそう……」

 みなさんはどうお考えですか。
 このご家族と同じでしょうか。
 看護師として言わせていただくと、このご家族の考え方は、「正解とは言いがたい」です。
 本来は、「老衰じゃないとかわいそう」なのです。
 老衰が最も楽な死であり、理想的な看取りとは、「老衰に近づけること」だからです。

 老衰とは、年を取って亡くなることではなく、細胞や組織の能力が全体的に衰えて亡くなることをいいます。
 すべての臓器の力がバランスを保ちながら、ゆっくり命が続かなくなるレベルまで低下していくので、患者さんはそれほど苦しくありません。
 ちょっとおかしな表現になるかもしれませんが、気がついたら死んでいたというのが、老衰による亡くなり方です。
 世の中で「大往生でしたね」「天寿をまっとうしましたね」といった言い方をされる“死”は、たとえ死亡診断書には「虚血性心疾患」「大腸がん」などと記されていたとしても、老衰死でもある場合が圧倒的です。

 この老衰こそが理想的な死なのです。