出版不況の中で文芸誌のリニューアルが成功するのはなかなか難しい写真はイメージです Photo:PIXTA

「出版不況」が叫ばれる中、異例のヒットを飛ばす“文芸誌”がある。1933年創刊の『文藝』だ。ヒットの要因となったのが、約20年ぶりに行った大幅リニューアル。新編集長としてその決断を下した坂上陽子さんに取材し、ヒットの背景を探った。(取材・文/フリーライター 有井太郎)

創刊以来86年ぶりの
「3刷」を生んだ要因は

 7月5日(金)に発売された『文藝』の2019秋季号。発売日に営業部員が全国の書店に案内すると、反響は大きく、早くもその日に追加注文が相次いだという。そして、土日をはさみ迎えた月曜には、すでに初版の在庫がなくなった。

 それ以降も秋季号の売れ行きは止まらず、1週間で“3刷”という状況に。また、SNS上でも大きな盛り上がりを見せ、さまざまな動きが起きた。

「出版不況」や「活字離れ」という言葉が叫ばれて久しい。短編小説や書評を中心に掲載する文芸誌は、誰もが想像する通り、その真ん中にいる当事者ではないだろうか。だからこそ、このヒットは異例と呼べる。

 今回の状況がどこまで特異なことか、同誌の編集長を務める河出書房新社の坂上陽子さんの言葉からもよく分かる。

「『文藝』は1933年創刊の文芸雑誌ですが、確認できる限り、3刷は創刊号以来86年ぶりです。増刷自体も17年ぶりで、私たちも予想外の売れ行きにびっくりしているんです」

“確認できる限り”と前置きがつくのは、戦中や戦後しばらくの記録が不十分なため。それだけの長い歴史を持つ『文藝』が、なぜこのタイミングでヒットしているのだろうか。

 ポイントになるのは、ひとつ前の夏季号(4月発売)から行われた大幅リニューアル。坂上さんが編集長に就任したのは今年1月であり、夏季号から雑誌の構成とデザインを一新した。