単なる「優秀な部下」にとどまるか、「参謀」として認められるかーー。
これは、ビジネスパーソンのキャリアを大きく分けるポイントです。
では、トップが「参謀」として評価する基準は何なのか?
それを、世界No.1企業であるブリヂストン元CEOの荒川詔四氏にまとめていただいたのが、『参謀の思考法』(ダイヤモンド社)。
ご自身が40代で社長の「参謀役」を務め、アメリカ名門企業「ファイアストン」の買収という一大事業に深く関わったほか、タイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社CEOとして参謀を求めた経験を踏まえた、超実践的な「参謀論」です。
本連載では、本書から抜粋しながら、「参謀」として認められ、キャリアを切り開くうえで、欠かすことのできない「考え方」「スタンス」をお伝えしてまいります。

14万人を率いた一流のCEOが<br />「幹部候補」と「それ以外」を見極める<br />最重要ポイントは何だったのか?Photo: Adobe Stock

企業の命運を握るビッグプロジェクトの「社長参謀」を任される

 企業トップの「参謀」の仕事は、なかなか難易度の高いものです。

 それは、私自身、骨身に染みています。あれは1988年のこと。40代はじめで現場の課長職だった私に、突然、社長直属の秘書課長の辞令が出ました。秘書課長と言っても、庶務的な業務を担うのではありません。ちょうどその頃、ブリヂストンは、アメリカの名門企業・ファイアストンと事業提携を始めようとしており、社長の激務をサポートする“特命スタッフ”として白羽の矢がたったのです。

 これは、ブリヂストンにとっては企業の命運を決するプロジェクトでした。

 タイヤは国際規格商品であるため、国境という「壁」がありません。“Cut Throat Business”(喉をかき切るビジネス)といわれるように、世界中のメーカーが“食うか食われるか”の熾烈な戦いを繰り広げる業界です。そして、“食われる”のは事業規模で劣る者。しかし、日本ではトップ企業ではありましたが、事業基盤が日本とアジア地域に偏っていたブリヂストンが、自力でグローバル市場を開拓する時間は残されていませんでした。

 そこで注目したのが、当時、深刻な経営難に陥っていたファイアストンでした。世界中に拠点をもつファイアストンと事業提携することで、一気に世界シェアを高める戦略に出たのです。

14万人を率いた一流のCEOが<br />「幹部候補」と「それ以外」を見極める<br />最重要ポイントは何だったのか?荒川詔四(あらかわ・しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むなど、海外事業に多大な貢献をする。 40代で現場の課長職についていたころ、突如、社長直属の秘書課長を拝命。アメリカの国民的企業ファイアストンの買収・経営統合を進める社長の「参謀役」として、その実務を全面的にサポートする。 その後、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップの地位を奪還した翌年、2006年に本社社長に就任。世界約14万人の従業員を率い、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけ、世界ナンバーワン企業としての基盤を築く。 2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。