参謀には、トップから独立した自律性が不可欠

 つまり、「上席の者に対して、事実を曲げずにストレートにものを言う」ことが、真の意味でトップに信頼される参謀の条件だということです。参謀は、トップの意思に基づいて活動しなければなりませんが、それは、単なる「右腕」として、言われるがままに行動することではありません。

 それでは、現場の信頼を獲得することはできず、その結果、「現場のディープな情報」を知ることもできなくなるでしょう。トップは現場との距離があるため、ときに、「机上の空論」に陥る可能性があります。そのようなときに、「現場のディープな情報」に基づき、トップに「現実的で実行可能な選択肢」を提示することが、参謀に求められる最も重要な任務なのです。

 そのためには、参謀たるもの、トップから独立した自律性を堅持し、「トップの意思」を実現するために必要であれば、ときに、トップに「ものを言う」存在でなければなりません。このスタンスをもたない人物は、どんなに有能であっても「参謀」にはなりえません。そして、これは、私がCEOになったときに、「参謀=幹部候補」と「それ以外」を見極めるうえで、最重要ポイントでもあったのです。

 もちろん、40代当時の私には至らない点も多々あったはずです。
 しかし、あのときの参謀としての実体験を踏まえつつ、そして、私がブリヂストンのCEOになったときに頼りにした参謀たちのことを思い返しながら、私なりに「求められる参謀像」を描き出したい。そう考えて書き上げたのが、新刊である『参謀の思考法』という書籍です。

「SWOT分析」「コア・コンピタンス分析」といった、思考ツールの話は一切出てきません。そのような「知識」を伝える書籍は、すでにたくさん刊行されています。それよりも、ビジネスの現場の“どうしようもない現実”のなかで揉みに揉まれて、泥まみれになることによってしか身につけることができない、「見識」のようなものに迫れればと考えています。本連載では、次回以降、その内容をお伝えしていきますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。