政府、日本銀行の円高に対する危機感の欠如ははなはだしい。

 当初、8月23日にもと見られていた菅直人首相と白川方明・日本銀行総裁の会談は、結局、同日のたった15分間の電話会談に終わった。詳細は不明だが、15分間では具体策まで踏み込んだ内容だったとは、とうてい考えられない。

政策空白をあざ笑う円高・株安<br />後手の対応が政策効果を縮小

 市場は政策の空白をあざ笑う。一服していた円高は再び進行した。電話会談の翌24日に円の対ドルレートは11日に付けた最高値を更新し15年2ヵ月ぶりに83円台に突入した。対ユーロレートも105円台を付けた。こちらも8年9ヵ月ぶりの水準だ。円高による業績悪化を懸念した株式市場は下落、日経平均株価は9000円を割り込んだ。翌25日も続落し、連日の年初来安値更新となった。

 9月14日に民主党の代表選挙を控えるなか、政府の要職にある政治家の関心事は経済に向かっていない。円高・株安への対応が後回しになるのも無理はないと市場は冷めた目で見ている。

 25日になってようやく、野田佳彦財務相が円高に対し、「必要なら適切な対応を取る」と発言し、日銀も金融緩和策を取るための臨時政策決定会合の開催を検討するなど、政策当局が重い腰を上げた。しかし、野田財務相が発言した同日の夕刻、菅首相が介入について「コメントしていない」と発言するなど、迷走ぶりを露呈した。

 もっとも、円高を押し戻すほど効果のある対策は期待できない。

 緩和策では、8月10日に住宅ローン担保証券の償還資金の再投資を決めたFRB(米連邦準備制度理事会)が先行した。対する日銀は、国債や社債を担保とした政策金利(0.1%)で貸し出す新型オペの枠(現在20兆円)やその期間(現在3ヵ月)を拡大するなどの緩和策を取ったとしても、FRBの緩和策によって高まった円高ドル安圧力を10日以前の状態に緩和するのがせいぜいだろう。

 景況感の悪化を受けて米国の長期金利は大きく低下している。米国の10年債利回りは現在2%半ばで推移している。日本の長期国債利回りも9年ぶりに0.9%を割り、低下してはいるものの、米国との金利差は大きく縮小している。