石破茂石破 茂・元自民党幹事長 Photo by Toshiaki Usami

9月14日投開票の自民党総裁選挙に立候補している石破茂元幹事長が11日、ダイヤモンド編集部のインタビューに応じた。アベノミクスについては「雇用が増えたのは生産性が低い業種」「ドルベースで見れば株価の上昇率は大きくない」と問題点を列挙。総裁の有力候補である菅義偉官房長官の掲げる地域金融機関の再編には賛成しつつ、中小企業の統合・再編については「再編より後継者のマッチングが重要だ」と疑義を呈した。(聞き手/ダイヤモンド編集部 山本興陽、岡田 悟)

中国とのGDPの差は2.9倍に開いた
日本は「働かないと生きていけない社会」になった

――アベノミクスの評価と課題についてどのようにお考えですか。

 アベノミクスによる好景気の期間、株価は上がりました。大企業は過去最高の業績を上げ、企業の内部留保も空前の額になりました。

 有効求人倍率も、全ての都道府県で1を超えました。それは評価すべきものでしょう。

 一方でこの間、日本と中国の国民総生産(GDP)の差は2.9倍と大きく開きました。アメリカとの開きも4倍。他のアジア諸国との差も縮まりつつあり、日本の競争力は非常に落ちてきています。

 雇用者数が増えたといっても、生産性の低い第3次産業、あるいは医療や介護といった業種が中心であり、女性と高齢者の雇用が増えた。

 有効求人倍率は改善したものの、中身を見ると、国民の生活が豊かになったというよりは、「働かないと生きていけない社会」になったのではないか。日本経済の力自体が強くなったわけではないのではないでしょうか。

 好景気を加速させたのは、円安と低金利、そしてなかなか上がらない賃金。いわゆるコストカット型の取り組みだったのではないですか。

――アベノミクスで、個人消費がなかなか増えませんでした。

 それはなぜか。消費性向の高い低所得の方々が増えたということです。所得が増えなければ、個人消費は上がりません。もう一つは、将来に対する不安があって、お金を使わない。この2つの悩みがあるのだろうと思います。

物価上昇率2%を目指すのは世界のトレンド
消費喚起には金融緩和より商品の魅力が重要

――過去に例のない規模の金融緩和を中心とした、日本銀行の政策についてはどのように考えていますか。

 日銀の役割は日銀法にある通り、物価を安定させることであって、それに尽きる。

 2%の物価上昇率の目標は、国際的なトレンドでもあるため、それ自体が否定されるものではありません。しかし、金融緩和をすると当然、円は安くなる。円が安くなれば、円ベース換算で業績が上がったように見えます。

 株価の上昇をドルベースで見るという議論はあまりされませんが、ドルベースで見ると、2倍に上昇した程度です。

 もちろん、金融緩和を突然やめるつもりはありません。社会を激変させ、混乱させることになるからです。

 そもそもデフレの何が問題かというと、お金を持つことに価値があるようになり、「お金を使おう」とならないこと。お金持っているほうが得だというのは、決して健全な経済とは思えません。

 ただその反対に、物価が上がるので、お金を持っていると損だから使おう、となるかといえば、それは違うと思っています。実際に、そういうことは起こっていないわけですし。

 金融政策の目的はあくまで物価の安定なので、2%の物価上昇率を念頭に置くことは否定しませんが、消費喚起のやり方としては少し違うのではないでしょうか。消費が伸びない要因として、日本で作られる製品が魅力的でなくなってきた面もあるでしょう。