写真・加藤昌人 |
高校2年生の春、オーストラリアの夜空に光の帯をかける天の川の圧倒的な美しさに魅せられた。
「なぜ、プラネタリウムはこの天の川を再現できないのだろう」。
それがすべての始まりだった。
人の目に見える星はせいぜい数千個。プラネタリウムが映す星の数もその程度で十分と考えられていた。だが、肉眼が漆黒ととらえるところにも、星は確かに存在している。その星まで映し出せば、本当の星空に近づけるのではないか。そう直感すると、自宅の七畳一間で、製作に没頭した。
大学の4年間で、個人では絶対不可能といわれていた、レンズ式のプラネタリウムに成功、4万5000個の星を輝かせてみせた。「周囲の思い込みを裏切って、驚かせたかった」。
ソニー時代には、星は170万個に増えた。天文学の膨大な公開データどおり、直径わずか5センチメートルのプレートに、0.7ミクロンの20万個の穴を、正確な位置にレーザーで焼いて開け、光を当てて投影する。気の遠くなるような試行錯誤をものともしない、作りたいという衝動。「メガスター」と名づけ、ロンドンの国際会議で披露、その偉業に世界は惜しみない賞賛を送った。独立して4年、今では560万個もの星を描く。
眼前に迫り来る星々を見上げると、吸い込まれそうな錯覚に陥る。見えない無数の星たちが、夜空の奥行きを演出しているのだ。もはやそこに、テクノロジーのにおいはない。
(ジャーナリスト 田原 寛)
大平貴之(Takayuki Ohira)●プラネタリウムクリエーター。1970年生まれ。ソニーを経て、2003年に独立。小学校時代から見よう見まねでプラネタリウムの製作を始め、1998年恒星数170万個の「メガスター」を開発。その発展型「メガスター2」は世界最高性能のプラネタリウムとして、2004年ギネスブックに登録された。