「電動化」という大転換期を迎えた自動車産業。世界に名立たる自動車メーカーのなかで独特の企業文化を育んできたホンダが目指すものは何か。今年6月に就任した伊東孝紳社長に聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」前編集長 鎌塚正良、写真撮影/住友一俊)

伊藤孝紳
いとう・たかのぶ/1953年生まれ、56歳。1978年ホンダ入社。1979年本田技術研究所に配属後、ボディ設計を中心に四輪車の開発を担当。1997年同取締役に就任。2000年ホンダ取締役に就任。愛車はフィット、インサイト、XRバハ。趣味は旅行とツーリング。社内の愛称はコウシンさん。

─ホンダの社長の椅子には、代々エンジン開発出身者が座ってきましたが、伊東社長はボディ設計の出身です。不文律が破られた。社長に求められる条件が変わったのでしょうか。

 エンジンが技術者の憧れ、エンジンがクルマの性能を決めていた時代は確かにあったと思います。けれどクルマには今、ただ速いだけでなく居住性や燃費のよさといったトータルの性能や商品価値が求められています。総合的な技術を磨いて、ホンダブランドの確固たる地位を築いていくことが私の使命だと考えています。

─本田技術研究所の社長も兼務することになりました。

 (当時の福井威夫社長に)兼任させてほしいと頼みました。ホンダ本体と研究所のつながりがより密接にならないと、この時代を乗り切っていけないからです。

─狙いは迅速な意思決定を行なうことですか。

 意思決定よりも、次の時代に対する考え方を本社と研究所が共有するためです。それも5年先ではなく、10年、20年先の考え方の共有が非常に重要なんです。

─本体と開発部門がちぐはぐだったわけですか。

 近年は地域経営を強化していました。お客様は地域にいらっしゃるわけですから、地域に貢献する商品をその地域で生産し、そして地域で販売する。