気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。同書では、富裕層のみが入居する「終の棲家」を徹底取材し、幸せな死に方とは何かを問うている。本稿では、人生の終盤に必ず直面する「相続問題」について、『国税OBだけが知っている失敗しない相続』(文藝春秋)などの著書があるライターの坂田拓也氏に寄稿いただいた。(取材・文:坂田拓也、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)
やらなきゃ損する相続税対策BEST3
国税庁が公表した「令和4年相続税概要」によると、相続税を納める人の数は2022年に30万人を超えた。
これは、相続税の課税ラインが2015年に遺産8000万円から4800万円に引き下げられたことや、都心部での地価上昇の影響がある(課税ラインは相続人が妻と2人の子供の場合)。
「自分には関係ない」と思って対策を怠っていると、残された家族に重荷を背負わせることになるかもしれないのが相続税だ。
相続税は税率が高く、遺産を相続する親族らにとって重い負担となる。しかし、事前の対策によって大幅に節税できることもある。このため、亡くなる前のひと工夫が損をするか得をするのかの分かれ道だ。
節税のポイントは、被相続人(故人)の遺産を減らすこと。
ここでは、今すぐ実行すべき節税対策を3つに絞って解説する。
1 「生命保険」への加入はマスト
1つ目は「生命保険」への加入だ。
相続専門のベテラン税理士は「生命保険には絶対に加入すべきです」と強調する。
理由は、亡くなった被相続人が掛けた生命保険を相続人が受け取る際、1人500万円まで相続税の対象から控除されるためだ。
例えば70歳の男性が、妻と子供2人の計3人を受取人にして、それぞれ500万円の生命保険に加入する。この場合、男性が亡くなった時に遺産から1500万円が控除される。これにより相続税が200万円、300万円、400万円……と節税できるのだ。
相続税の税率は財産が多ければ多いほど納税額が上がっていく累進制で、10%から最大55%まで変動する。そのため、遺産が多い人ほど節税額が大きくなる仕組みだ。
相続税を納めるのは遺産を受け取った相続人だ。
例えば男性の遺産が1億円だった場合、妻と2人の子供は保険金各500万円を受け取った上に、3人で計205万円の節税ができる(遺産がすべて現金と仮定した簡易計算)。
遺産の分配には時間がかかるが、保険金はすぐに受け取れる。そのうえ納税時の負担が205万円減るため、生命保険に加入しなかった時に比べて大きな差が出るのだ。ちなみに、相続放棄をしても保険金は受け取れる。
なお、節税向けの生命保険は高齢者でも加入可能で、保険料を一括払いするタイプが主流だ。保険会社にとっては通常の保険より運用期間が短く、低金利の下で運用益を捻出できない。このため販売中止が相次いでいたが、今年に入り、金利の上昇で販売復活の兆しが見えている。だが、為替リスクの高い外貨建て商品を選ぶ際は慎重になるべきだ。
まずはどんな商品があるのか、チェックしてみるのがいいだろう。