ユニクロを展開する「ファーストリテイリング」の柳井会長。国内で快進撃を続ける中、なぜ海外進出にこだわるのか? そこには柳井会長の覚悟があった。

 5月13日、カジュアル衣料・ユニクロを率いる柳井正会長が上海に降り立った。今回の訪問は2日後に迫った上海のグローバル旗艦店のオープンにあわせたものだ。日本で最も注目される経営者の1人である柳井氏は、上海を足がかりに世界ナンバーワンの座を目指すという。

 オープン前日の記者会見では、こう宣言した。

「中国では10年以内に1000店を出店し、存在感No.1のブランドになりたい」

 勝ち組と呼ばれるユニクロが急拡大を続ける理由は何か、われわれ取材班は、今後の日本企業の生き残りに向けたヒントが隠されているかもしれないとの思いから、ユニクロの海外戦略を取材した。

「日本のDNA」を強みに、
圧倒的な世界一を目指す

 ユニクロを展開する「ファーストリテイリング」は日本企業がデフレで苦しむ中でも快進撃を続け、過去最高の売上を毎年更新し続けている。海外への進出を加速させ、10年後には現在の売上およそ7000億円を5兆円にして、圧倒的な世界一を目指す計画だ。

 こうした計画を実現するための戦略は、「日本の強みを生かす」こと。グローバル化によって1つになった世界市場で、日本の得意とする品質やサービスを武器にして戦っていこう、というものだ。

 「日本の強み」とは何か。オープン直前の上海のグローバル旗艦店を取材した。グローバル旗艦店は、ユニクロの知名度を世界に向けて発信させるための拠点となる店舗だ。売り場面積は3600平方メートルとユニクロが展開する900あまりの店の中で最大。ニューヨーク、ロンドン、パリに次ぐ世界で4番目の店舗だ。

 そこでわれわれ取材班が見たのは、日本と全く同じ高い品質を強調する商品だった。さらに店舗では、中国人の定員にミリ単位での商品の陳列や、きめ細かな接客などのサービスの研修を徹底して行なっていた。

 柳井氏は「品質」と「サービス」を「日本のDNA」と呼び、今後世界で戦っていくための強みにしていこうとしていたのだ。「強みをより強くしていくことをしないと、最終的には世界では勝てない」と柳井氏はこの戦略を位置づけた。

 柳井氏がこだわった「品質」を支えるのは、中国やベトナムにある70社の提携工場。こうした工場では、生地の製造から、染色、縫製まで、一貫して品質管理を行なっている。生地の中には、提携する繊維メーカーの東レと共同で開発したものもある。

中国の工場に派遣された日本人技術者。「匠」と呼ばれる彼らは、ユニクロのDNAの1つである「品質」を支えている。

 さらにこうした素材を加工するための工夫が、「匠」だ。匠は、工場に派遣された30人ほどの日本人技術者。繊維メーカーなどで長年勤務した熟練の職人だ。匠の1人小西英典さんは、われわれが取材に訪れた日も生地のわずかなゆがみを発見すると、ミシンの微妙な調整を行ない対応してみせた。小西さんは言った。

「今までの財産を生かして、ユニクロのレベルアップを図りたい」