今回は、「引きこもり」やその家族らの間で、いま注目されている「脳内の精神・神経生物学」の観点から、サラリーマンが突然、会社に行けなくなる身体症状を検証してみたい。

会社の玄関前で身体が動かなくなり、
「引きこもり」に

 都内の大手メーカーに勤務していた30代の技術職員のハシモトさん(仮名)は、神奈川県にある郊外の一軒家で、妻と幼い息子の家族3人で暮らしていた。

 ある朝、いつものようにハシモトさんが、妻の運転する車で会社に送られてきたとき、異変は起きた。会社の玄関の手前で、身体がびくとも動かなくなってしまったのだ。

 以来、ハシモトさんは、会社の前までは出勤できるものの、玄関をくぐれないまま自宅に引き返して、出社できない状況が続いた。

 以前、本連載の第4回で紹介した、会社の門の前まで来ると、急に動悸が激しくなり、身持ちが悪くなって、自宅に引き返していた30代のヤマグチさん(仮名)と同じような症状だ。

 ヤマグチさんは、会議の席で、上司から厳しく叱責されたのをきっかけに、眠れない日々が続いていた。人事担当者の勧めで、病院の内科で診察を受けたものの、体には何も異常が見当たらず、そのまま会社を退職。その後も、求職活動をすることなく、引きこもり状態になった。

 ハシモトさんの場合は、4~5年くらい前から、うつ病を発症していたというが、その症状はなかなか回復しなかった。

 しかも、出社できなくなってから、すでに半年。有給休暇もすべて使い果たし、引きこもり状態になっていた。

 ハシモトさんの仕事ぶりは、非常に優秀で、扶養している家族もいる。会社としても、彼のことを必要な人材だと考え、ずっと我慢していた。とはいえ、不景気の厳しい経済状況の中で、かつての“家族主義”の時代のような余裕もない。これ以上休まれるのは限界だったという。